【災害廃棄物】いわき方式に注目(8月12日)

AI要約

いわき市は災害廃棄物の臨時集積所を住民主体で選定する取り組みを始めた。昨年の線状降水帯被害を踏まえ、住民との対話を重視している。

市は全656の行政区ごとに臨時集積所を確保し、市民と協力して災害時の対応力を高めている。

市の取り組みは全国でも例がなく、県内外から注目されている。災害廃棄物処理計画の充実に向けて、他の自治体も模倣すべきだ。

 いわき市は台風シーズンに備え、災害廃棄物の臨時集積所を住民主体であらかじめ選定する取り組みに乗り出した。市内では昨年9月、県内で初めて観測された線状降水帯が甚大な被害をもたらし、さまざまな場所に勝手に持ち込まれた家財などが復旧作業を妨げた。教訓を基に動き出した独自策が有事に機能するよう、市は住民との丁寧な対話に努めてほしい。

 市は線状降水帯による豪雨の3日後、市内3カ所に廃棄物の仮置き場を開設した。その時点で既に、被害が大きかった地域の学校や道路端、私有の空き地などには使えなくなった大量の家具などが捨てられていた。水害とは無関係な産業廃棄物も持ち込まれるなどして長期の分別・収集作業を強いられ、衛生・治安面の懸念が生じた。

 こうした事態を重く見て、市は全656の行政区ごとに臨時集積所を確保する方針を打ち出した。住民の話し合いで場所を決め、市に届け出てもらう。災害発生時は地元の判断で集積所を管理・運営する。持ち込まれた廃棄物の処理や、活用した土地の復旧作業は市が担う。市に事前登録した集積所であれば、原状回復に国の補助が適用されるのは大きな利点と言える。

 市は各行政区長らへの説明を進め、水害が想定される371行政区を優先して早期の選定を目指している。場所の確保と周知、分別ルールの徹底、被災した住民自らによる管理の在り方など、課題は多い。市は地域ごとに異なる実情を丹念に把握し、行政と民間の役割分担を詰める必要がある。市の仮置き場の迅速な開設についても、さらなる工夫を求めたい。

 市によると、地域住民による臨時集積所設置の仕組みづくりは全国に例がなく、県内外から問い合わせが寄せられているという。県や国は官民連携のモデルケースになるよう支援し、情報発信にも取り組んでもらいたい。

 7月には山形、秋田両県で豪雨による被害があり、災害が身近に深刻化、頻発化しているとの危機感を強めた県民は多いはずだ。災害廃棄物の処理計画を定めた県内市町村の割合は60%程度にとどまり、全国平均の80%を下回っている。県全体の備えを充実させる上でも、いわき方式に注目したい。(渡部育夫)