水俣病が人生の全てじゃない…マイク切り問題で8日、環境相との再懇談に臨む男性は言う。「一人の人間として対等に関わって」

AI要約

長井勇さんは胎児性水俣病患者でありながらも、毎日通う飲食店で自分らしく過ごしている。

彼は他の側面や未来にも焦点を当て、同じように対等に扱われたいと訴えている。

長井さんは行動力があり、海外旅行やスーパーへの買い物など様々な興味を持っている。

水俣病が人生の全てじゃない…マイク切り問題で8日、環境相との再懇談に臨む男性は言う。「一人の人間として対等に関わって」

 鹿児島県出水市境町出身の長井勇さん(67)=熊本県水俣市=には、毎日通う飲食店がある。ありのままの自分で居られる心のより所だ。8歳で「胎児性水俣病患者」と診断を受けた。声を上げることは大切だと思うが、「患者の自分」ばかりが押し出されると、他の側面がなかったものにされているようでつらい。「僕の名前は長井勇。一人の人間として対等に関わってほしい」

 2日正午、同市浜町の飲食店「はまぐり庵」には車椅子に乗り、“いつもの席”でくつろぐ長井さんがいた。1日2回、ほぼ毎日来店する常連客。アットホームな店内に溶け込んでいる。頼むのはいつも日替わり定食。好物の肉は最後に食べる。

 今より体が動く頃、電動シニアカーに乗り、旗をはためかせて同市から出水市のスーパーに出かけた。鹿児島市の山形屋にも行ってみたい。最近は、海外にも関心がある。店長の浜口京子さん(65)は、長井さんを「行動力にあふれた人」という。「行きたい国が次々と変わるのも長井さんらしい」とほほ笑んだ。

 8日の伊藤信太郎環境相との再懇談で、長井さんは昨年5月に亡くなった母チカエさん=享年91歳=のことを訴える。優しくて大好きだった母は、最後まで患者と認められなかった。「胎児性の子を産んだ母が認定されないのはおかしい」。言いたいことはたくさんある。だが、報道陣の前に立つのはためらう。

 名前の前に「胎児性水俣病患者」と紹介されると、自分を決め付けられているようで嫌だった。水俣病の悲惨さを伝えるために生まれてきたわけではない。同情されると悔しい。「水俣病が人生の全てじゃない。みんなと同じようにかなえたい未来があり、大切な人がいる」

 浜口さんは、長井さんら水俣病患者が暮らす近くのケアホーム「おるげ・のあ」の元職員で10年来の付き合い。長井さんに合わせた量や調理法でメニューは提供される。食べ過ぎを注意されたり、冗談を言ったりして笑い合う。

 「電話魔」な一面もあるという人好きな長井さん。「はまぐり庵で友達もできた。誰かは内緒」。いたずらっぽく笑って店を後にした。