猫も感染!? 犬だけじゃない、蚊が原因の「フィラリア症」。知らずに感染していることも!

AI要約

フィラリア症について獣医師で作家の片川優子さんが解説。猫も感染し、心臓や肺に寄生して命を脅かす可能性がある。

フィラリア症は蚊を介して広がり、犬と同様に猫も感染する。予防薬は成虫ではなく幼虫を殺すための薬である。

イベルメクチンの普及により犬の寿命が伸び、感染頭数が減少している。

猫も感染!? 犬だけじゃない、蚊が原因の「フィラリア症」。知らずに感染していることも!

 暑くなり、蚊を見かけることが増え、そろそろ蚊の対策を準備せねばと思っている方もいるだろう。犬は今の時期「狂犬病ワクチン」の接種が法律で義務付けられているため、動物病院へ行くついでにフィラリア症の検査をし、予防薬をもらう、というプロセスがかなり浸透している。

 しかし、キャットオーナーの中には予防接種はするけれど、「そもそもフィラリアってなに?」という方も多いだろう。「フィラリア症」という言葉は聞いたことがあっても、犬だけがかかるものと思っている方もいる。実は猫もフィラリア症にかかる危険性があり、またフィラリア症によって突然命を落とすこともあるということを知っている人はほとんどいないのではないだろうか。

 過去に、『人も危険!? 蚊・マダニ・ノミ…夏に増加「虫が運ぶ」ペットの病気』の記事内でも紹介したことはあるが、今回は、知られざる猫のフィラリア症について獣医師で作家の片川優子さんに詳しく解説いただく。

 フィラリア症とは、「犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)」という寄生虫による病気で、蚊によって病気が広まっていく。

 フィラリア症にかかった動物の血を蚊が吸い、その蚊がまた別の動物の血を吸うと、目に見えないほど小さい犬糸状虫という虫の幼虫(ミクロフィラリア)が動物の体の中に入っていく。この幼虫は体内で数ヶ月かけてゆっくりゆっくり成虫になっていく。成虫になった犬糸状虫は最終的に心臓や肺の血管に寄生する。感染から半年ほど経ち、成虫のオスとメスが揃うと次々と幼虫が生み出される。寄生された動物は、心臓に寄生した成虫によって息が苦しくなったり、お腹に水が溜まったり、空咳が出たりといった症状を出し、なにも治療をしないと死んでしまうこともある。

 犬を飼っている人ならば、住んでいる地域にもよるが、毎年5月ごろにフィラリア症の予防薬を飲み始める。「予防薬」と一般的に呼ばれはするが、この薬は、まだ犬の体に入ったばかりの幼虫を殺す「駆虫薬」である。幼虫が成長するには時間がかかるため、ひと月に1度薬を飲めば、もし犬の体にフィラリアの幼虫が感染していたとしても、成虫になる前に残らず駆虫できる、という仕組みだ。

 つまり、フィラリア症予防のために飲ませている薬は、幼虫が体に入るのを阻止するとわけではなく、入ってきた幼虫を殺すための薬なのである。そのため、蚊が出始める時期よりも少し遅れて飲み始め、蚊がいなくなった少しあとまで飲まなければならないのはそういった理由があるからだ。

 「犬糸状虫」という名前からも分かる通り、この寄生虫は本来イヌ科動物の体内でよく成長する。イヌ科動物の体内では、犬糸状虫は、感染後6~7ヶ月で幼虫を産み始める。心臓や肺血管に寄生する成虫は、時に250隻(フィラリアの成虫はこういう単位で数える)にも及ぶことがある。成虫は犬の体内では、なんと5~7年も生きることができ、その間心臓や肺血管は寄生によるダメージを受ける。

 ひと昔前には日本中の犬に感染し、寿命を縮めていたフィラリア症だが、「イベルメクチン」というミクロフィラリアを殺す薬が発見され、普及してからは感染頭数が劇的に減った。ちなみにイベルメクチンを発見した大村智北里大特別栄誉教授は2015年にノーベル医学生理学賞を受賞しており、諸説あるものの、イベルメクチン普及により犬の寿命は10年ほど伸びたと言われている。