ロート製薬、新入社員が「先生になる日」を設置 若手から学ぶ意義とは

AI要約

異なる世代が働く職場における価値観のギャップを埋めるために取り組むロート製薬の取り組み。短期配属制度や新人が先生になる日、社内ニックネーム制度などを活用し、新入社員と先輩社員が一緒に学び合う環境を築いている。

新入社員からの提案や若手の視点を尊重し、フラットなコミュニケーションを促進。社内ニックネーム制度で役職や年次を超えたコミュニケーションを実現し、新人も気軽に意見を述べる文化を醸成している。

社会との向き合い方や相手を尊重する姿勢を大切にし、多様な世代が共存する職場での円滑なコミュニケーションと成長を支援している。

ロート製薬、新入社員が「先生になる日」を設置 若手から学ぶ意義とは

 異なる世代が働く職場では、どうしても価値観に差が生まれてしまう。このギャップを解消するために、企業ではどのような取り組みをしているのか。ロート製薬の事例を紹介する。AERA 2024年9月23日号より。

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 社員に自立してほしいと願うのは、どこの職場も同じだろう。だが、組織が大きくなり、さまざまな世代が入り交じるほど、考え方や働き方も多様化する。そこで生じたギャップを埋めるためには、どうすればいいのか。

「あの壁はなんですか?」

 そう投げかけたのは、入社間もない一人の新入社員。資料を立てるために置かれたついたてを見て、疑問に思ったようだった。創業125年を迎えたロート製薬の広報・CSV推進部での一コマだ。新入社員はこう続けた。

「これは心の壁になります」

 長年チームにいた社員からすると、考えもしないことだった。試しについたてを外してみると、確かに話しやすい。広報の戸部由紀子さんは言う。

「壁があることで、この席の人たちの会話が少ない気がするという指摘でした。短期配属でやってくる新入社員の方たちからは、私たちが当たり前だと思って気づかないことを言ってくれるので、ドキドキします」

 短期配属は、同社が取り入れる世代の壁を打ち破る仕組みの一つだ。毎年多くの新入社員が入社するが、業務内容によっては新人が配属されない部署もある。だが、多様なバックグラウンドを持つ新人と先輩社員が一緒に働くことで新たな気づきが生まれるはずだと、21年から3カ月弱の短期配属制度を導入。戸部さんは言う。

「新入社員が社内のさまざまな部門を知ることができると同時に、先輩社員も何かを学ぼうと躍起になる期間でもあります。関心事や悩み、若い世代の価値観を教えてもらう時間をつくり、そこで得たものを実務に生かすことを目指しています」

■社員証にニックネーム

 新人から教わるのは、短期配属の期間だけではない。入社後には「新人が先生になる日」を設け、新入社員らによるプレゼン大会を実施する。SNSのトレンドや若手の飲みニケーションへの思いなど、テーマ設定は自由。先輩社員の関心も高く、オンラインでは100人近い社員がリアルタイムで視聴するという。

「新人が会社や社会に貢献できることなんてないと思いがちですが、若手だからこそ考えていることや若手にしかわからない感覚があるんです」

 そう話すのは、人事総務部の藤原結衣さんだ。こうしたイベントや制度を通して、新入社員も臆することなく発言できるようになっていく。

「新入社員には、入社初日からロートの仲間として対等な存在だということを意識してもらっています」(藤原さん)

 社歴や役職の垣根を越えて、社会と向き合うこと。そして目の前の相手を尊重すること。その姿勢が垣間見えるのが、同社が取り入れる「ロートネーム」という社内ニックネーム制度だ。

 入社時に「呼ばれたい名前」を自分で決め、それが社員証にも記載される。藤原さんのロートネームは「ゆいぴー」で、後輩から「ゆいぴーさん」と呼ばれることも。新人たちもそのフラットな空気を感じ取り、役職や年次を過度に意識することなく、伸びやかに働けるという。今年入社し、広報に短期配属中の山本祥太郎さんは言う。

「自分なりの視点とか新人ならではとか難しく考えすぎずに、思ったことをただ伝えるだけでも十分なんだと感じています。そこで生まれた先輩との会話を掘り下げて、自分の言葉にまとめていくことで、自分自身の成長にもつながっていくような気がしています」

(編集部・福井しほ)

※AERA 2024年9月23日号より抜粋