認知症の人は見抜いている! お年寄りの「厄介な行動」を悪化させていたのは「介護者の気持ち」だった
認知症の人の夜間の落ち着きのない行動について紹介。夜勤者の対応によって様々な結果が現れることを示唆。
落ち着かない日と落ち着いた日の夜勤者の違いによる介護方法の違いについて詳細に説明。
正しいアプローチとタイミングを追い求めることが認知症の人への適切な接し方であることを強調。
お年寄りのことが気がかりで関わろうとしても、嫌がられたり怒られたり……。介護者はなぜそんな目に遭うことがあるのだろう? 原因は、認知症のせいで「すれ違い」が起こっているからだった。
問題を解決するカギは「人間関係」にある。現在はデイサービス代表として活躍中の著者が、グループホーム「みのり」に勤めていた頃の経験をもとに綴った『認知症の人のイライラが消える接し方』(植賀寿夫著)より一部抜粋して、介護の知恵を紹介する。
『認知症の人のイライラが消える接し方』連載第16回
『急に「盗み」を始めた認知症の女性…介護のプロが見つけた「驚きの原因」と「効果あり」だった対応』より続く
もう1ケース紹介します。
オカモトさん(83歳)は夜、落ち着かないことがある男性でした。深夜でも構わず施設から出ていこうとされます。
玄関だと誤解して、ほかのお年寄りの居室の戸を開けてしまうことも……。その部屋の入居者と諍いになったこともあります。
僕は職場に泊まり込んで、落ち着かない原因を探ってみたことがあります。すると、オカモトさんには「よく寝る日・寝ない日」があることがわかりました。
よく寝ない日には、イライラや幻視が出ることもあります。なぜそうなるのか。夜勤者の対応に違いがありました。
寝ない日の夜勤者は、オカモトさんが歩き回るのに付き添います。ほかの入居者とのトラブルを避けるため、横について歩くんです。そして、オカモトさんがほかのお年寄りの居室へ向かおうとすると、
「あっ、そっちではなくて……」
と、誘導しようとすることが多いとわかりました。
一方、よく寝る日の夜勤者はどうか。オカモトさんが起きて歩き回り始めても、何も話しかけません。後ろから追っていくだけです。
トラブルを起こさないように監視しているわけではありません。
オカモトさんは、出口がわからず困っている。だから、いつでも頼ってもらえるよう見守っているんです。そして、オカモトさんに助けを求めるそぶりが見え始めたタイミングで、
「どうかされました?」
と声をかけていました。
「トラブルを避けるため」についているのか
「頼ってもらいやすいよう」についているのか
その違いを、僕らが思っている以上に、本人は敏感に感じているようでした。
オカモトさんが誤ってほかの人の居室に入り、ケンカになったことがありました。そんなときでもよく寝る日の夜勤者は、いきなり介入して止めるのではなく、
「困ったら、いつでも僕を頼ってね」
と、オカモトさんのそばについていました。
オカモトさんは、歩き回りながらいつしか不安になっていたんです。そんな人のペースを崩すようなかたちで介入しても、よけい不安にさせるだけ。
そばにいて、タイミングをみて働きかける
頼れる人だと感じてもらう
それが大事だというのが、よくわかります。