5時間半の「徘徊」の末に思いを果たしたホーム利用者...彼の「無茶」が介護職に教えてくれた、認知症の人々の「誰も知らない真実」

AI要約

介護者がお年寄りに嫌がられたり怒られたりする理由は、認知症によるコミュニケーションのすれ違いが原因である。

タケダさんは奥さんとの確執や家族関係の葛藤を抱えながら、介護施設で生活している。

タケダさんの外出願望は理解者に会いたいという願いがあるため、職員がその意味を理解することが重要である。

5時間半の「徘徊」の末に思いを果たしたホーム利用者...彼の「無茶」が介護職に教えてくれた、認知症の人々の「誰も知らない真実」

お年寄りのことが気がかりで関わろうとしても、嫌がられたり怒られたり……。介護者はなぜそんな目に遭うことがあるのだろう? 原因は、認知症のせいで「すれ違い」が起こっているからだった。

問題を解決するカギは「人間関係」にある。現在はデイサービス代表として活躍中の著者が、グループホーム「みのり」に勤めていた頃の経験をもとに綴った『認知症の人のイライラが消える接し方』(植賀寿夫著)より一部抜粋して、介護の知恵を紹介する。

『認知症の人のイライラが消える接し方』連載第11回

『ホーム利用者の「5時間半に及ぶ徘徊」...それでも付き合い続けた介護者たちが最後につきとめた「意外過ぎる目的」』より続く

北陸生まれのタケダさんは、親とケンカして実家を飛びだしたそうです。仕事はどれも続かず、職を転々。結婚して男の子が生まれますが、それでも仕事は続きません。

成長した息子さんは、自分の学費のためにアルバイトせざるを得ませんでした。タケダさんは、その息子さんの給料を酒につぎ込みました。だから、今でもずいぶん恨まれているそうです。

でも、そんな彼を許したのが、奥さんでした。奥さんだけが、タケダさんの唯一の味方だったんです。子どもが巣立ち、二人暮らしになったあと、奥さんが脳卒中で倒れました。それ以来、意識が戻っていないそうです。

当初、タケダさんは毎日お見舞いに通いましたが、自身も脳出血に見舞われます。総合病院に担ぎ込まれたものの、今度は医師とケンカ。精神科病院への転院を経て、「みのり」に入居したのでした。

タケダさんは、奥さんとは何年もの間、会えていなかった計算になります。こうした細かい経緯を、僕たちは一度も本人から聞かされていません。タケダさんの息子さんからも、そんな話はうかがっていませんでした。

奥さんが入院していて、お見舞いに行きたいって言ってくれれば送るのに――。その説明ができないのが、認知症なんでしょうか。正直なところ、僕ら「みのり」の職員は、タケダさんが外出しようとするたびに、

〈この忙しいときに限って……〉

としか見ていませんでした。もちろんタケダさんは、本当に怒って出ていくこともありました。でも、それだけじゃなかったんです。

タケダさんは、自分の唯一の理解者に会いたいと思っていた。彼の外出には、本人にとって大切な意味があったんです。