熊本県知事の「一般事務とかいらない」が物議…失言する人の思考パターンを精神科医が分析

AI要約

熊本県の木村敬知事の失言が物議をかもしたが、真意を問われると撤回、訂正して謝罪した。

同様の失言はSNSでも起こり、一般の人も失言のリスクにさらされている。

政治家や有名人の失言は社会問題となるが、その背景には自己評価の高さや状況による心理的要因がある。

熊本県知事の「一般事務とかいらない」が物議…失言する人の思考パターンを精神科医が分析

 熊本県の木村敬知事(50)の発言が物議をかもしている。県庁内での会議で「一般事務とかはいらないんですよ」などと語り、その後、真意を問われると、発言を撤回、訂正して謝罪した。相次ぐ政治家の失言は呆れるばかりだが、SNS全盛のいま、一般の人もあらゆるシーンで失言→炎上のリスクをはらんでいる。

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 木村知事の問題発言は今月20日、「くまもとで働こう推進本部」の会議で飛び出した。県内の人材不足解消を議論するもので、「一般事務はいらない。そういう若者を育ててはいけない。教育長には過激な言い方だが、(高校の)普通科はいらないと思っている」と持論を展開した。

 その発言には続きがあって、県幹部職員に向けてこう問いかけている。

「今後、一般事務はAIが代行していく中で、人間でしかできない医療や福祉の従事者などのエッセンシャルワーカーを増やすためにはどうすべきか」

 後半部分と合わせて前半部分を読めば、今後のIT化の進展で一般事務がAIに置き換わっていくであろう流れは理解できなくもない。だからといって普通科不要論にまで波及するのは、ちょっと話が飛躍し過ぎかもしれない。結果として前半部分が切り取られる形で報道され、“木村失言”は大炎上した。

 県内外から強い逆風を受けた木村知事は、「事務職をなくすとか、県内の普通科を全廃するとか、そういうつもりはまったくない。教育と福祉をしっかりやりたい。エッセンシャルワーカーを増やしたい思いでの発言。訂正しておわびします」と謝罪した。

 事態の沈静化を図る木村知事に対して、ネット上での失言で絶体絶命のピンチに陥ったのがフワちゃん(30)だ。芸人のやす子(25)が今月2日に「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので皆 優勝でーす」とXに投稿したところ、4日に「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と引用リポストしてかみついた。

 その不適切投稿が原因でフワちゃんは、自らの名前を冠したラジオ番組が放送休止になり、CM動画も公開停止に。謝罪を繰り返しても、騒動は収まらず、芸能活動を再開できそうな気配はまったくない。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は2人の失言の違いに触れた上でこう言う。

「木村知事の失言は、全体の文脈をよく読めば言葉足らずが原因で、説明不足の部分をきちんと丁寧に補えば理解できないことはないでしょう。しかし、フワちゃんの投稿は木村知事の“失言”と比べると、明らかに陰湿で生死に触れているのがよくありませんでした。そんな失言内容の“質”もさることながら、問題が発生した場所もそれぞれの騒動に影響しています。木村知事は会議における会話でしたが、フワちゃんは不特定多数が存在するネット上のSNS。ネット上での失言はデジタルタトゥーとして残り続けるので、“人のうわさも七十五日”では済まず、影響が大きい。一般の方も人ごとではありません」

 政治家は本来、言葉を大事にする仕事のはずだが、日本にはその意識に欠ける人が目立つ。たとえば静岡県の前知事・川勝平太氏(76)は、4期15年の任期中、「静岡市は政令市の失敗事例」「あちら(御殿場市)はコシヒカリしかない。ただメシだけ食って、それで農業だと思っている」「磐田は文化が高い。浜松より元々、高かった」などと失言を繰り返した挙げ句、今年4月1日の新人職員への訓示でもやらかして辞職に追い込まれている。

「県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり、物を作ったりとかと違って、基本的に皆さんは頭脳、知性の高い方たちです」

“職業差別発言”ととらえられても不思議ない内容だったから、さすがに辞職やむなしだった。

 永田町に目を向けても自民党の麻生太郎副総裁(83)は舌禍問題を繰り返している。今年1月には、上川陽子外相を話題に「このおばさん、やるねぇ」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と差別的な発言で大炎上した。永田町の失言議員が麻生氏に限らないのは、ご存じの通りだ。

■適度な自己評価はよし、高過ぎは不寛容に

 常識があればリアルな世界でもネット上でも、これらの発言がマズイのは分かるはず。それでも毎年のように失言が問題になるのは、うっかりなのか、それともわきの甘さを持ち合わせた人に共通することなのか。

 精神科医で明陵クリニック院長の吉竹弘行氏は「ある種の考え方を持つ人が、ブレーキが外れやすい状況に直面すると、失言しやすいのだと思います」としてこう言う。

「ひとつは、自己評価や自己肯定感の高い人です。たとえば、熊本の木村知事は左手首から先を失うハンディを負いながら男子校御三家のひとつ私立武蔵中高から1浪の末に東大法学部に進学。卒業後に自治省(現・総務省)に入省したエリートです。中学から常に“デキる集団”にいるのですから、『頑張った』という思いは少なからずあるでしょう。逆に言うと、庶民の感覚を知らずに育ったとも言えます。一般に自己評価や自己肯定感が適度な人は、周りにおおらかで寛容になるのですが、それが強過ぎると自分本位で周りに不寛容になりがち。特に出世直後は、自己評価や自己肯定感が高まるので、自信がある人ほど失言を起こしやすいのです」

 木村氏の知事就任は今年4月。蒲島郁夫前知事の任期満了に伴う選挙戦を勝ち抜いてのものだ。その蒲島氏は東大時代の指導教官。師匠からバトンを引き継いで県政トップに立った喜びはひとしおだっただろうが、そんなときほどボロを出しやすいという。