「インフルエンザ」にかかりやすい人とかかりにくい人、その違いは意外なところにあった

AI要約

体質は遺伝的素因と環境要因の相互作用によって形成され、一生変わらない部分と生活環境によって変わる部分がある。

体質は遺伝子疾患や生活習慣病、がん、感染症などの病気の発生に影響し、遺伝的素因と環境要因が重要な役割を果たす。

日本人における体質の特徴や病気予防法を理解することで、個々人の健康に役立つ情報が得られる。

「インフルエンザ」にかかりやすい人とかかりにくい人、その違いは意外なところにあった

日本人には、日本人のための病気予防法がある! 同じ人間でも外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がなく、むしろ逆効果ということさえあるのです。見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための方法を徹底解説!

*本記事は『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』(講談社ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

体質とは何でしょう。じつは「体質」という言葉は最近の医学書には登場しません。昔はその人の体に本来備わった特徴を「体の性質=体質」と呼んでいました。たとえば虚弱体質といえば、顔色が悪く、やせて体力がなくて、病気になりやすい人のことです。質の一字だけを使って、ちょっと優雅に「蒲柳之質」と言うこともありました。蒲柳はカワヤナギやネコヤナギの別名で、木が柔らかく、秋になると他の樹木より早く葉がハラハラと散り始めることから、虚弱体質を蒲柳にたとえるようになったようです。

蒲柳之質の反対に、体が丈夫で頑健であれば「松柏之質」です。こちらは松やヒノキ、サワラなどの常緑樹のこと。冬もずっと葉を茂らせていることから、丈夫な体を指して使われるようになりました。

体は誰にとっても大切で身近なものなので、体質の話は頻繁に会話にのぼります。

「酒が飲めない体質だから、いつもノンアルコールにしてるんだ」

「あのサプリ、脂肪が燃えやすい体質になるんだって」

体質という言葉を使わないこともあります。

「アボカドはなんか合わないみたいで、食べたあとで胃がもたれる感じがするんだよね」

「あの子、なんべんでもインフルエンザ拾ってくるの。主人も子供のころそうだったらしいから、そういうたちみたい」

言い換えると、自分はアボカドが食べられない体質だ、うちの子はインフルエンザにかかりやすい体質だ、ということです。

さて、冒頭で書いたように体質がその人の体に本来備わった特徴のことであるなら、一生を通じて変わらないはずです。しかし実際には、これまでなんともなかった人が突然花粉症になった、ランニングに打ち込むようになったら風邪を引かなくなった、というように、体質が変わったとしか考えられない現象が起こります。生まれもったものが変わるなんて、そんなことがあるのでしょうか?

では、ここで辞書を引いてみましょう。『大辞泉』は体質をこう定義しています。

たい-しつ【体質】

1 からだの性質。遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質。「風邪をひきやすい体質」「特異体質」

2 団体・組織などがもつ、性質や特徴。「日本人の体質に合わない思想」

2は1の意味を人間集団や組織にあてはめたものですから、ここでは1の定義を見てください。「からだの性質」は良いとして、注目してもらいたいのが「遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される」という部分です。体質というと、生まれつき備わった遺伝的素因だけに目を向けがちですが、環境要因も体質に大きな影響をおよぼすと考えられていることがわかります。

ここでいう環境要因は、食生活、喫煙、気候、細菌やウイルス、紫外線、運動、ストレス、睡眠など、体に影響を与えうるすべてのできごとと行動を含みます。じつは、この定義は、病気が起きる原因について昔から医学者たちが考えてきたものと同じなのです。

図1-1を見てください。これは医学・医療分野の学生が必ず学ぶ、古典的な模式図です。

病気の発生には、遺伝的素因と環境要因がさまざまな割合で関係することが描かれています。図の左上に近いほど遺伝的素因の影響が強く、逆に右下に近づくにつれて環境要因の影響が強まります。このなかで遺伝的素因が大きな原因となって発生するのが遺伝子病、環境要因の影響が大きいのが骨折などのケガです。

遺伝子病は遺伝子の異常により発生する病気のことです。筋ジストロフィー、血友病、家族性高コレステロール血症などが有名ですが、遺伝子の異常は突然変異で起きることもあるので、親から受け継いだとは限りません。

また、骨折のうち、骨がもろくなって発生する骨粗鬆症は遺伝的素因がかなりの部分を占めることが明らかになっています。そのため、高齢者の転倒による骨折に限っては、もっと左に寄った位置にきます。そして、遺伝的素因と、生活習慣を含む環境要因の両方が発生に影響するのが、糖尿病などの生活習慣病、がん、感染症です。

このように病気の発生にかかわる体質にも、遺伝子によって決まり、基本的に一生変わらない部分と、生活環境やストレス、食生活や運動などの生活習慣によって変わる部分があり、日常生活においては、これらをひっくるめて、ばくぜんと「体質」と呼んでいます。そのため本書でも、「遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される、その人の体が持つ性質と特徴」を体質と考えることにします。