専門家に教わった「認知機能をキープするために今日から始められること」

AI要約

認知機能をキープするためには、運動、食事、社会参加、生活習慣病の管理、認知トレーニングなど、複数の活動を意識して行うことが重要。

運動では週に3回以上、中強度の運動を150〜300分行い、有酸素運動と筋力トレーニングの両方を取り入れることが効果的。

食事では青魚や緑黄色野菜を取り入れてバランスよく摂取し、食事記録をつけることでバランスのよいメニューに工夫することが大切。

専門家に教わった「認知機能をキープするために今日から始められること」

 前々回から、『認知症高齢者の将来推計』の最新版を見ながら、認知機能をキープするためにできることを考えている。

 国立長寿医療研究センターが他機関と協力して行った『J-MINT研究』では、生活習慣病の管理、運動、栄養指導、認知トレーニングからなる『多因子介入プログラム』に認知機能の低下を抑制する効果があることを検証したという。研究センター所長の櫻井孝先生によると、認知症リスクを低減するためには、上記のうち、2つ以上を意識して行うのが大事だとか。

『最新研究結果からわかった!認知症を抑制するカギは?「食事・運動・社会参加・認知トレーニング……etc」2つ以上の活動に効果あり!』

 そこで、今回はそれぞれの分野でどのようなことを意識すればいいのかを具体的に教わると共に、最新の『認知症高齢者の将来推計』で調査を担当した九州大学の二宮利治先生に、上記分野以外で「今から始められること」について伺った。

 国立長寿医療研究センター他が2019年から行った『J-MINT研究』とは、認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究で、生活習慣病の管理などからなる『多因子介入プログラム』に認知機能の低下を抑制する効果があることを検証したものである。

「従来の『運動だけ』や『食事だけ』の介入では、結果がばらついていました。また、複数を同時に行う研究は世界でも多く出てきており、全体を俯瞰すると、『多因子介入は有効である』と言って良いと考えます」(国立長寿医療研究センター、研究所長・櫻井孝先生、以下同)

 つまり、認知機能の低下を抑制するには、一つの分野の活動だけを意識して行うのではなく、2つ以上の活動を行うのが大事ということだろう。

 なお、認知症リスクを低減させるためには、「5tips」といわれる要素があるという。運動、食事、社会参加、生活習慣病の管理、それに認知トレーニングである。

 この5つから複数分野を選んで生活を改善するとして、それぞれの分野では、なにをどう意識すればいいのだろう? 一つずつ教えていただこう。 まずは運動から。

【運動で意識すべきこと】

「運動は、 『中強度の運動を週に150~300分』、頻度は『週に3回以上』行うのがいいとされています。 具体的には、ウォーキングなどの有酸素運動とスクワットなどの筋力トレーニングの両方を行いましょう。

 J-MINT研究では、スポーツクラブ等を運営する会社と協力してインストラクターによる90分間の運動教室を週に1回開催しました。教室では、一般的な有酸素運動のほかに、筋に負荷をかける動きを繰り返し行う『レジスタンストレーニング』や『バランストレーニング』を基本にして、当センターが開発した運動と認知課題(=計算やしりとりなど)を組み合わせて行う『コグニサイズ』を行いました。    

 参加者の皆様には、そのほかに宿題として運動動画を渡して家でも運動をしていただきました」

 運動では、「なによりも継続して行うことが大切です」と櫻井先生。継続できるボリュームで、まずは始めてみるといいだろう。

【食事で意識すべきこと】

 続いて、食事はどうだろうか。

「食事は、認知機能をキープするのに有効とされている青魚や緑黄色野菜をとり入れて、バランスよく、かつ、多種類を摂るのが大事です。

 J-MINT研究では、管理栄養士の方に入ってもらい、参加者の方々に対面または電話で半年間に4回(対面1回、電話3回)の栄養指導を受けてもらいました。

 とはいえ、日常的に管理栄養士の指導を受けるのは難しいと思いますので、なにをどれ位食べるといいかなどは私共が制作した『あたまとからだを元気にする MCIハンドブック』を参考にするといいでしょう。

 特に、ハンドブックの別冊である書きこみ式の『生活ノート』を利用していただくと、バランスよく食べる工夫がしやすくなり、改善をしていきやすくなると思います」

 実際に「生活ノート」の食事記入欄を見てみると、「主食(ごはん・パン・麺)」「主菜(肉・魚・卵)」「副菜(豆/大豆製品・野菜・きのこ・芋類」「その他(果物・海藻・ナッツ・乳製品)」などと細かく分類されていて、自然にバランスのよいメニューになるように工夫されているのがわかる。

 なお、食事に関しては年齢による意識チェンジも大切で、「中年期ではメタボ対策を、高齢期ではフレイル予防のために痩せないように意識しながら食事するのが大切です」とのことである。

【社会参加(=他者との交流)で意識すべきこと】

 社会参加は、どうだろうか?

「社会参加では、週に1回以上は家族以外の人と会話すること、つまり他者と交流することを心がけてください。方法はどんなものでも構いません。ボランティアでも仕事でも習い事でも、友人とのお茶でもいいので、自分が楽しいと思うものやこれならできると思うものを選んで、少なくとも、週に一回は誰かと会話したり、交流したりするようにしてください。

 J-MINT研究では、毎週参加者の方々に、運動教室に足を運んでもらいましたので、そこでこの分野をカバーしました」

【生活習慣病の管理で意識すべきこと】

 続いては、生活習慣病の管理について。

「病気のコントロールでは、特に生活習慣病の管理をするのが大事です。高血圧、糖尿病、脂質異常症などがある人は、医療機関を受診して薬などでしっかり管理をしましょう。また、生活習慣病のあるなしに関わらず、自宅でも週に1回程度は体重と血圧を計測したり、年に1度は健康診断を受けたりするといいでしょう。これは、現役世代の方々にも意識してほしいです」

 なお、糖尿病の人はアルツハイマー型認知症のリスクが2.1倍になるというので、気に留めておくといいだろう。

【認知トレーニングで意識すべきこと】

 最後は、認知トレーニングについて。

「病院など専門機関で行う認知トレーニングには、認知機能の低下を抑制する効果があります。ただし、自宅で行う場合の認知トレーニング(の方法や教材)には、明確なエビデンスのあるものがまだ少ないのが現状です。

 J-MINT研究では、最もエビデンスが多かった『Brain HQ』を使用しました。これは、パソコンやスマホなどで使える脳のトレーニングプログラムです。参加者の皆様にタブレットを渡して毎日30分行ってもらうようにしました」

 J-MINT研究では、以上の内容を65歳から85歳までの軽度認知障害を持つ高齢者531名を対象に、18か月間(1年半)体験してもらったという。その結果、「運動教室に70%以上参加した人では、18カ月後の認知機能に明確な改善がみられた」とか。

 今回は、5つの分野の「意識すべきこと」を紹介してもらったが、「5つ全てを行わなくても、できることから2つ以上を行うといいでしょう」と、櫻井先生。

 複数の活動を行うことで、認知機能の低下が抑制されると心得ておこう。