「自宅で最期を」に固執しすぎると、もしもの時に慌てふためく【親を要介護にさせたくない】

AI要約

高齢者の最期を自宅で迎えたいという願いがある。しかし、それに固執するだけでは十分でなく、公的施設の利用も考える必要がある。

特養や老健など公的施設の利用方法や特徴を理解し、適切な時に利用することが重要である。

高齢者の自宅生活には限界があり、適切な介護施設を利用することで安心して最期を迎えることができる。

「自宅で最期を」に固執しすぎると、もしもの時に慌てふためく【親を要介護にさせたくない】

【親を要介護にさせたくない】#11

 高齢者の話題でよく聞かれるのが「自宅で最期を迎えたい」との言葉だ。施設じゃない、病院でもない。家族や友人に囲まれながら好きな場所に暮らし続け、最後まで自分らしさを失いたくない気持ちの表れだ。

 子供としては、できるだけその思いを実現させてあげる努力をしたい。けれど実家に暮らし続けることのみに固執していると、病気やケガで親の老化が一気に進んだ時、自宅の改修では対応しきれず慌てふためくことになってしまう。転ばぬ先のつえの言葉にあるように、一度は高齢者向け住まいについて確認しておこう。

 まず覚えておくべきは公的施設の特別養護老人ホーム(特養)だ。原則65歳以上・要介護度3以上の自宅での生活が困難な人が入居対象で、収入が少ない人ほど低料金で利用できる。部屋は新しい施設ほど個室タイプが多く、より安く利用できる多床室は減っている傾向がある。それでも終身利用が可能のため、年単位の順番待ちが発生しているところが珍しくない。

 利用料金は個室で月額6万円~と数字だけ見れば安価だが、介護保険限度額負担割合証が適用されない人(第4段階)は15万~20万円超に跳ね上がる。

 もうひとつ、原則65歳以上・要介護度1以上を対象としている公的施設が老人介護保健施設(老健)。こちらは在宅復帰を目指す施設のため、医師や看護師のほか、理学療法士や作業療法士なども常駐し、1日20分ほどのリハビリを週3回ほど受けることができる。その成果を見極めつつ、原則3カ月ごとに入居を継続する必要性が審査される。部屋は多床室がメインで利用料金は月額8万~15万円ほど。特養より上限が少し低めと考えておけばいい(個室はかなり高くなる)。

 老健は以前ご紹介した回復期リハビリテーション病棟を出たものの、もう少しリハビリが必要な人の受け皿としての役割がある一方、どうしても自宅に戻すことができず、特養の順番待ちのため(老健を)渡り歩くケースもある。それほど、高齢者が元気に自宅で暮らし続けることが難しい世の中なのだ。

 参考までに要介護度の高い特養はもちろん、低めの老健でも施設内の移動はほとんど車椅子が使われている。筆者は何カ所も施設見学に行っているが、スタッフが利用者に語りかけている姿は見ても、利用者同士で楽しく語らっているところはほとんど見たことがない。在宅復帰を目指す老健といえども、自宅の構造や家族の事情で、そう簡単に復帰させることができない介護の現実がそこにある。公的施設ゆえにイベントも食事もごく普通のものが多い。

(西内義雄/医療・保健ジャーナリスト)