インドの女性を水くみの重労働から自由に NPOがビジネスの手法で起こす意識の変化

AI要約

インドでは水の不足や汚染が深刻な問題で、女性が水の確保に尽力している。

水を提供するだけでなく女性の自尊心を回復しようとする財団の取り組み。

ラー財団がインド西部の村に飲料水供給設備を提供し、女性たちの負担を軽減。

インドの女性を水くみの重労働から自由に NPOがビジネスの手法で起こす意識の変化

インドでは水の不足や汚染が深刻な問題だ。水の確保は主に女性が担っているが、飲料水を提供するのみならず女性の自尊心を回復しようと取り組む財団がある。機会を提供して、ビジネスの手法も用いながら、変化を持続させようという哲学に貫かれている。(秋山訓子=朝日新聞編集委員)

インド西部のマハラシュトラ州。州都のムンバイから列車に乗り2時間、さらに車を2時間走らせ、繁茂する木々の間を行った道の先にカンド村があった。

村に住む主婦のディパリ・クタデさんとジョティ・ゴビンドさんは、今年6月に水の供給設備が集落にできるまで、水の確保に追われる毎日だった。家族の飲み水のため、5リットル入る金属製ポットを二つ、時には三つ、手で持ち頭の上に載せ、片道1キロの道のりを水くみ場まで1日最低2往復しなければならなかった。ここでは水の確保は女性たちの役割だ。

インド全土でも水の問題がある。政府の2018年発表の統計では、全人口の約4割、約6億人が深刻な水不足に直面しており、全世帯の75%が自宅の外で飲み水を入手しなければならない。

カンド村に飲料水の供給設備を提供したのは、ムンバイを拠点に水や農業、女性や若者の支援を行うNPOの「ラー財団」だ。最新のフィルター技術で水を濾過(ろか)し、飲用可能にした。クタデとゴビンドは語る。「水に追いまくられ、疲れ切っていた。まずは休みたい」「水くみに使っていた時間を何に使おうか考えるのが楽しい」

インドでは家にトイレがなく、屋外で済ませることが珍しくない。「屋外で排泄(はいせつ)すれば、流すための水は必要なく、水の節約にもなる。だが、そのせいでバクテリアが繁殖し、地下水を汚染する原因になっている」と同財団の創設者でCEOのサリカ・クルカルニさん。

モディ政権は2014年、屋外での排泄をなくそうとキャンペーンを開始。相当の効果を上げたとされるが、まだ屋外で排泄する人は後を絶たない。

ラー財団では井戸や浄水フィルターを設置したほか、村に「委員会」をつくり、水や排泄の問題を人びとが議論するよう促した。すぐにトイレを大幅に増やすことは難しいので、飲み水を取る井戸からは一定の距離で「境界線」を引き、その境界線の内側で排泄することを禁じるルールを作ってもらった。