佐藤愛子さんがこよなく愛する北海道浦河町で『九十歳。何がめでたい』が上映 笑顔で溢れる48席の映画館「大黒座」

AI要約

映画『九十歳。何がめでたい』が北海道・浦河町の映画館「大黒座」で上映され、大盛況である。浦河は作家佐藤愛子の特別な場所であり、彼女が約50年にわたり毎夏過ごした聖地巡礼の舞台でもある。

佐藤愛子は1975年から北海道・浦河町に別荘を建て、毎夏をそこで過ごしてきた。映画館「大黒座」は彼女にとって、執筆の合間に立ち寄る貴重な娯楽の場であった。

近年の映画館の厳しい経営状況やコロナ禍にもかかわらず、佐藤愛子の映画が上映されたことで映画館は再び賑わいを見せ、公開初日には多くの笑顔の観客が訪れた。

佐藤愛子さんがこよなく愛する北海道浦河町で『九十歳。何がめでたい』が上映 笑顔で溢れる48席の映画館「大黒座」

 北海道・浦河町の映画館「大黒座」で映画『九十歳。何がめでたい』の上映が始まり、連日大盛況だ。浦河は佐藤愛子さんが約50年にわたり毎夏を過ごした特別な場所で、『九十歳。何がめでたい』や『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』、そして今回の映画にも登場する、いわば聖地巡礼の舞台でもある。いざ浦河へ──。

《東京の酷暑を逃れてこの北海道、道南の別荘へ来たのは八月六日である。この家で夏を過すのは今年(2019年・編集部注)で四十五年目である。四十五年のうちで来なかった夏は二年だけで、その一年は娘の出産のため、もう一年は飼犬のタローの十九年の命が瀬戸際を迎えたためだった》(『増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず』より)

 佐藤さんは1975年に北海道・浦河町に別荘を建てて以来、事情がない限り毎夏をそこで過ごしてきた。

 大黒座はそんな佐藤さんにとって、執筆の合間に立ち寄る貴重な娯楽の場だった。館主・三上雅弘さんの話。

「ひと夏の間に娘の響子さんと2~3回はいらっしゃっていたと思います。映画館の横でクリーニング屋もやっているので、そちらの用事で先生がいらっしゃったときに映画に人が入っていないと『いまから映画をかけましょうか』なんて言って、ご覧いただいたこともありました。

 それは先生だからということではなく、『いま向かっているんだけど5分ほど遅れる』と電話が入り、映画を観ている人に事情を説明して、その人が到着したらフィルムを巻き戻して最初からかけるなんてこともありました。要するにお客がいないんです(笑い)。

『九十歳~』の上映が決まったあと、町の人たちから『先生の映画、楽しみにしてるよ』って声を掛けられる機会が増えました」

 大黒座の創業は1918年のこと。現在の三上さんは4代目館主に当たる。

「父が館主を務めた戦後の最盛期は人があふれて220席に増改築したのですが、30年ほど前に建物の老朽化や道路の拡幅で映画館を改築しなければ続けられなくなり、いまのような48席になりました。それでも『千と千尋の神隠し』や『タイタニック』をかけていた頃はたくさん人が入ったのですが、大作が借りられなくなってどんどん厳しくなりましたね」(三上さん)

 近年はコロナ禍と、Netflixやアマゾンプライムビデオなどに代表されるサブスクの台頭により、映画館の経営はさらに厳しくなるばかり。そんな状況を知っている佐藤さんが、この映画で少しでも浦河と大黒座が元気になれば―と願い、その思いが結実して、この度公開初日を迎えた。

 7月21日朝10時からの初回には28人が席を埋めた。ご夫婦や子連れ、単身のかた……次々に館内へ入って行く顔はみんな笑顔だ。

「この2週間でいらっしゃったお客さんの数よりも多いです。家族みんなで行って満杯になると困るから、夫は夕方の回に行くねっておひとりでいらっしゃったかたもいました。映画の中で犬のハチ(原作ではハナ)と出会うシーンは浦河ですよね。エンドロールでも先生が犬を抱いて太平洋をバックに別荘で撮った写真が映っていて、感慨深かったです」(三上さん)

《今年(2015年・編集部注)の六月、ハナが死んだ。/ハナは十四年前、北海道の私の別荘の玄関の前に捨てられていたメス犬だ。生れて二、三か月というところか、両の手のひらに乗っかるくらいの大きさだった。夜が白々と明ける頃、クークーキャンキャンと啼く声に家中が目を覚ましたのだった》(『増補版 九十歳。何がめでたい』より)