「土」でストレスを緩和?腸内細菌やメンタルヘルス向上にも効果的な「土壌有機物」とは

AI要約

近年の研究では、土が健康に良い影響を与えることがわかってきている。土の中には多様な細菌や生命体がおり、私たちの腸の健康やメンタルヘルスにプラスの影響を与える。

土壌有機物はプロバイオティクス食品以上に有益と考えられ、腸内細菌叢の多様性を高めることで健康をサポートしている。しかし、現代の生活環境の変化によってこの多様性は低下している。

都市生活への移行により、自然から遠ざかってしまったことで細菌との接点が失われ体内の炎症を制御する力が弱まった。これにより、アレルギー性疾患や自己免疫疾患、精神疾患のリスクが増加している。

「土」でストレスを緩和?腸内細菌やメンタルヘルス向上にも効果的な「土壌有機物」とは

私たちの大半は土や泥に“汚い”というイメージを持っている。子供の頃は外で遊ぶたびに「服を汚しちゃダメよ」と言われ、大人になったらなったで根菜の土を徹底的に洗い落す。ところが最近、この現実を変えるような新しい研究結果が次々と発表されている。

パンデミックの余波を受け、土が私たちの健康に与える影響を調べる研究が増えてきた。その結果を見る限り、土は悪いものじゃない。むしろ土は腸の健康やメンタルヘルスもサポートするというから、ウェルネス業界も強い関心を示している。

事実、2022年のグローバル・ウェルネス・トレンド・レポートによると、ウェルネス系観光事業で次に流行るのは、食糧採集ツアーや泥スパといった土や泥に関連するアクティビティ。TikTokでは、#mudbath(泥風呂)というハッシュタグ付きの動画が1億5200万回以上再生されている。

もちろん、科学者たちが夢中になっているのは白衣を脱いで泥に浸かることではなく、“土壌有機物”の可能性を探ること。マイクロバイオーム研究者のルーシー・メイリングによると、土壌有機物は土の中に生息している100種以上の多様な細菌と生命体を意味する言葉。

土壌有機物は、腸内細菌が私たちのためにしていることを植物のためにする。つまり、食べ物を分解し、ビタミンを作り出し、病原体(ウイルスや悪い細菌)と戦ってくれるのだ。しかも、土壌有機物は手や野菜を介して人間の体内に入り込み、腸内細菌叢の多様性を高めたり、メンタルヘルスを向上させたり、私たちをワクワクさせたりといった仕事までしてくれる。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

土に対する世間の興味関心は、免疫力を強化するプロバイオティクスの食品(ケフィアやヨーグルトなど)の人気に乗じて高まった。科学者の中には、土壌有機物がプロバイオティクス食品に含まれる善玉菌以上に有益と考えている人もいる。

その証拠に、微生物学専門誌『Microorganisms』掲載の2019年の研究では、土壌が腸内細菌叢(消化器系に生息する細菌、真菌、ウイルスを含む微生物の総称)によい影響を与えることが分かった。土壌と腸には同等数の活性微生物がいるけれど、腸内細菌叢の多様性は土壌の生物多様性の10%に過ぎず、現代の暮らし(農薬で無菌状態にされた野菜、砂糖が多く食物繊維が少ない加工食品、油っこい洋食)によって劇的に低下している。

“衛生仮説”という言葉を聞いたことはあるだろうか。衛生仮説は自然界の微生物に触れる機会を増やすのは健康によいという考え方で、1989年に提唱された。米コロラド大学ボルダー校の生理学助教授クリストファー・ローリーによると、みんなが農業や狩猟採集をしていた頃は土壌の微生物に触れる機会が多かった。「でも、都市環境で暮らすようになってからは微生物との接点が失われてしまいました」

「その結果として体内の炎症を制御する力が失われたこともあり、都市生活への移行は、ぜんそくをはじめとするアレルギー性疾患に加え、1型糖尿病や多発性硬化症などの自己免疫疾患が増加した一因とされています。不安障害、情動障害、PTSDといったストレス関連の精神疾患も、体内の炎症がリスク因子である以上、都市生活に関連していると言えるでしょう」。2050年には世界人口の3分の2が都市で暮らすと言われているので、これは大きな懸念事項。