「気づけば40代目前。独身女性が人生を心地よく生きるには?」【高尾美穂医師に聞く】

AI要約

独身女性の40歳目前の不安や孤独感について、産婦人科医・高尾美穂さんがアドバイス。不安の具体的な原因を洗い出し、健康・経済面にフォーカスすることを提案。

子どもがいないことによる罪悪感や社会貢献について、高尾美穂さんは「開き直り」を促す。自由さを生かし、楽しく生きることの大切さを説く。

人間関係の重要性や楽しみ方についても触れ、独身女性が自分らしく幸せに生きるためのヒントを提供。

「気づけば40代目前。独身女性が人生を心地よく生きるには?」【高尾美穂医師に聞く】

女性の人生は、体調のリズムやその変化と密接な関係があります。生理、PMS、妊娠、出産、不妊治療、更年期……。そうした女性の心と体に長年寄り添ってきた産婦人科医・高尾美穂さんによる連載コラム。お悩み相談から生き方のヒントまで、明快かつ温かな言葉で語りかけます。今回のテーマは「独身女性の心地よい生き方」について。40歳を目前にこのまま独身で生きることがリアルになってきたと感じたとき、さまざまな不安やモヤモヤをどう解消すればよいのでしょうか。

Q.「40歳目前、独身。多様な女性の生き方が知られるようになった今も、独身の女性が生きにくさや孤立感、疎外感を抱く場面はまだまだ多いと感じます。寂しすぎる夜のやり過ごし方や将来の不安への対処法をはじめ、この社会の中で独身でも『大丈夫』と思えるヒントを伺いたいです」(30代女性)

高尾美穂医師(以下、高尾): 今の時代、独身女性や子をもたない女性は明らかに増えていますし、「いろんな生き方がある」という理解も広がっているように感じます。私の生まれた頃であれば、もっと世間の偏見があったと思います。確かにまだまだという部分はあるかもしれませんが、少しずつでも状況が変化していること自体には勇気づけられる部分もあるのではないでしょうか。

ただ、寂しさや不安を抱えているというのは、今の自分の状況をどこか受け入れられていないところがあるのかもしれませんね。よく言われるのが、独身女性が幸せなのは30歳すぎくらいまでで、そこからはだんだんと焦りが生まれ、40歳になると不安と焦りがピークに。50歳も手前になると諦めとともにある意味すがすがしい気分で、そこから先は、そんな状況を受け入れ、独身の人生を楽しめるかどうかで幸せ度は変わってくると思います。

――確かに、20、30代は目の前の仕事で精一杯。40歳となり、改めて自分の人生に向き合ったとき、不安や焦りを感じる女性は少なくないのかもしれません。

高尾: いろんな理由があるとは思うのですが、ある日突然40歳になっていた、というわけではないはず。厳しいことを言うようですが、今ある状況の半分は、自分で選んできたとも思うんですよね。とはいえ、この社会の中で、女性も仕事をすることは求められるようになったけれど、家事や子育て・介護はやっぱり女性が担うという状況は変わっていない、という大きな課題がもたらした面もあるのは確かだと感じます。

そこで、漠然とした不安を抱えてしまっているのであれば、まずはそれがどんな不安なのか、具体的に書き出してみることをおすすめします。自分が何を焦り、不安に感じているのかが明確になると、次に何ができるか、その対策が見えてくるはずです。

――特に40代目前の独身女性が抱えがちな不安にはどのようなものがあるでしょうか?

高尾: よく聞く不安としては、大きく2つ。「体調面の不安」と「経済面の不安」があるのではないでしょうか。

まず、健康面の不安に関して言えば、定期的に健康診断や人間ドックを受けるなどで、不安はずいぶん減らせるはずです。経済面の不安は、自分が果たしていつまで働き続けられるのかが問題になってくるでしょう。会社員として働いている方の場合、定年退職後もはるかに長く生きると考えたら不安になってしまう。であれば、そのリミットが来る前から、今の仕事に軸足を置きつつ、他に収入を増やす方法を考えて少しずつシフトしていけるといいのではないでしょうか。

例えば、投資信託などを始めるのも手でしょうし、もっと手軽にフリマアプリなんかを活用して手作りしたものや何らかのスキルを売る、とかしてみるのもいいかもしれません。

いきなり大きな金額を稼ごうとするのではなく「こうした方法もあるのだ」と知っておくだけで安心感につながると思います。また、案外馬鹿にできないのが日々の節約です。雨が降ってきたからとコンビニで傘を買ったり、つい電気をつけっぱなしにしたりしていませんか? そうした日常的な出費を見直してみることも、大切だと思いますよ。

――出産や育児のためにキャリアを中断した女性と比較し、子どもがいない自分は「社会貢献」できていないと罪悪感を抱えている女性もいるようです。

高尾: その考え方はもう全く間違っていると言いたいですね。例えばスポーツクラブがどうやって運営されているかを考えてみてほしいのですが、週に4、5回と通ってくれる会員はもちろん、そうでない会員もいてこそ成り立っています。これは社会にも当てはまることで、子どものいる人だけでなく、産んでいない人を含め、いろんな人がいていいんです。

そもそも働いていれば間違いなく税金を納めているわけですし、働いていない人だって、誰かにとってかけがえのない存在であることに変わりはありません。「それなりに元気で楽しくやっている」というだけで十分社会貢献をしているのだと、誰しもが胸を張ってほしいのです。子どもを産んでいない人が、ただそれだけで、社会に貢献していないなんてことは1ミリもないんですよ。ただ、貢献できていると思えない理由は、本人の中に子どもがいないことへの“引っかかり”があるからなのでしょう。

――その引っかかりを解消する方法はあるのでしょうか?

高尾: 今の時点で子どもを産んでいないということは、たとえはっきりと「産まない」と決めたわけでなくとも、そこに向かうまでの小さな選択を何度も重ねてきたはずなんです。だけど、それがなかなか自分で納得できない。それは、40歳という年齢が「まだ頑張れば何とかなるかもしれない」という瀬戸際にあるからなのだと思います。

まずは、自分が子どもを産みたいのか、育てたいのか、徹底的に考えてみてはいかがでしょうか。その結果、「産みたい」思いがあるのであれば、パートナーがいないのなら本気で探し、例えば3年間で300万などと具体的な目標や費用を設定して、妊活・不妊治療に全力で取り組んでみるのもいいでしょう。自分の状態に納得できたとき、その“引っかかり”は解消できるのではないかと思います。

生活に困窮するシングル女性向けのサポートといった取り組みもありますから、今すぐ必要としていなくても、自分の住んでいる自治体にどういったサポートがあるのか、自分が社会の中でどんな支援が受けられるのかあらかじめ知っておくことも、安心材料につながると思います。ただ、何より大切なのは人間関係だと思うんです。

――結婚している周りの友人や高齢の親に迷惑をかけたくないという思いから、なかなか助けを求めることができないという場合も多いようです。

高尾: 独身の方は、ある意味、誰かに支えてもらえなくても、どうにかここまでやってこられたと言えるわけで、中には自分の弱みを誰にも見せず、深い人間関係を持たないままに生きてきたという人もいるでしょう。でも、これからはその意識をぜひ変えてみてほしいんです。なぜなら、歳を重ねていくほどに、自分一人ではどうにもならないことがどんどん増えてきますから。

例えば、ある日突然救急車で運ばれて入院することもあるかもしれません。そのとき、自宅の鍵を渡して家に入ってもらえる人がいるか、「あそこに下着があるから持ってきて」と頼める人がいるか。いざというとき頼れる人がいるというのは、この先安心して生きていくためにもとても大事なこと。今すぐには思い浮かべられなくても、自分の周りや過去を振り返って、そうした人間関係を築けそうな人がいるかどうか、見渡してみてほしいですね。

「迷惑をかけたくない」「心配をかけたくない」と言うけれど、その多くは思い込みだと思うんです。例えば家族のいる友人との付き合いだって、子どもにお年玉をあげるとか、喜びそうな手土産を持っていくとか、“ギブアンドテイク”的な部分を作れば、相手にとってもそれは嬉しい出来事になるでしょう。自分の親だって、いつまでも子どもの心配をできるなんてすごく幸せなことだと思いますよ。どんどん心配をかけたらいいと私は思います。これから大事なのは「開き直り」ではないでしょうか。

――「開き直り」。独身の人生を心地よく生き抜くためのヒントになりそうですね。

高尾: たとえ結婚していても、子どもがいても、悩む人はたくさんいます。むしろ子どもや夫など自分以外のことで悩まなきゃいけないというのは、より苦しいことでもあるかもしれません。考えてみてください。自分一人なら、いきなり仕事を辞めたっていいし、好きなところに移住してもいい。いくらでも変えられるんです。不安ばかりに目を向けるのではなく、そうした独身ならではの気楽さ、自由さも、大事にしていただきたいです。

「人生つまらない」とクヨクヨしていたらきっと一生つまらないんです。何かハマれるものや趣味を見つけて楽しむもよし、仕事をもっと深めていくもよし。そうしたものが何もないという人は、自分の興味を突き詰めることなく、“上辺の2割”くらいのところでなんとなく生きていませんか? そういうまんべんなくできる人を作ってきたのがこれまでの学校教育だったから、それはある意味、上手くできているとも言えるのですが、もしこれから先一人で生きていくと決めるなら、本当に自分が楽しいと思うような時間をいかに増やすかは重要なポイントです。旅行や習い事など、まずは自分が楽しいと思えることに出会うきっかけを作ってみましょう。ちなみに私は、昔やっていたバイオリンもう一度習ってみようと最近、音楽教室を検索してます。

30代であれば、多少体力的な変化はあるかもしれませんが、まだまだやりたいこともやれる年齢です。あまり悲観的にならず、人間関係を広げたり、これまでチャレンジできなかったことを試してみたり、人生のスパイスになるようなものを見つけてみてください。

■『娘と話す、からだ、こころ、性のこと』

著者:高尾美穂

発行:朝日新聞出版

価格:1760円(税込)

高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。