少子化対策の切り札に? 世界初!AI予測モデルによる精液なしの男性不妊スクリーニング検査

AI要約

男性不妊治療の障壁となっている精液検査のハードルを下げるため、血液検査のみで男性不妊リスクを測定するAI予測モデルが開発された。

その精度は74%で、非閉塞性無精子症の場合は100%の正答率を示す。

血液検査による診断で男性不妊リスクを判定するAI予測モデルは、少子化が進む国において重要な役割を果たす可能性がある。

不妊治療の障壁を取り除き、男性も含めた不妊の問題に対処することが期待されている。

AI予測モデルの商品化により、男性不妊の認識が変わり、精液検査のハードルが下がることで不妊治療が進み、少子化対策に貢献する可能性がある。

少子化対策の切り札に? 世界初!AI予測モデルによる精液なしの男性不妊スクリーニング検査

 世界初の「精子採取なしの男性不妊の1次スクリーニングAI予測モデル」が、英国科学誌「ScientificReports」(2024年7月31日付)に紹介され、国際的な反響を呼んでいる。男性不妊治療は少子化が進む国の課題のひとつだが、診断に必要な精液検査のハードルが高いことが治療の障壁となっている。この技術により血液検査のみで男性不妊リスクの判定ができれば、治療が必要な男性が浮き彫りになり、男性不妊治療は大幅に進む。AI予測モデルの開発者で論文の筆頭執筆者である、東邦大学医学部泌尿器科学講座准教授の小林秀行医師に話を聞いた。

  ◇  ◇  ◇

「私たちは、血液検査によるホルモン値の測定だけで男性不妊リスクを測定するAI予測モデルを、2011年から10年間に男性不妊の検査で訪れた3662人の精液ならびにホルモン検査の臨床データを用いて構築しました。その精度は約74%で、男性不妊症の中でも最も深刻な非閉塞性無精子症(精子が通る管は正常だが、何らかの原因で精巣で精子の生産ができなくなり無精子症と診断されたケース)では100%の正答率でした」

 論文発表後、英国の大手新聞「ガーディアン」など世界中の180を超えるメディアで論文引用されており、学術論文の社会的影響度の指標であるオルトメトリクスは8月3日時点で1000を超えている。

「まだまだ診断精度は満足いくものではありませんが、AIに学習させる臨床データを増やせば診断精度は向上するでしょう。ただし、このAI予測モデルは、精液検査に代わるものではなく、その前段階で行う1次スクリーニング的な位置づけです。ですから、実用化すれば不妊治療専門施設以外でも手軽に受けられるようになり、精液検査のハードルを下げることにつながると期待しています。このAI予測モデルで異常が見つかれば、非閉塞性無精子症を疑い治療するきっかけになるでしょう」

 この技術に世界が強い関心を寄せるのは、少子化が年々深刻になっているからだ。実際、1人の女性が生涯を通じて産む子供の数を表す合計特殊出生率の直近データは、日本1.39、韓国1.11、台湾1.09、米国1.84、英国1.63、ドイツ1.58、イタリア1.24、中国1.45。夫婦で「2人」を維持できないことは少子化を食い止められないということだ。

 むろん、出生率低下の原因は非婚率とも連動しているが、不妊も原因のひとつで、それは男性も大いに関係している。

 実際、2017年に世界保健機関(WHO)は不妊の原因の半分は男性側にあると報告している。ところが、男性不妊治療は、その診断に必要な精液検査のハードルが高いため、遅々として進んでいないのが実情だ。

■検査のハードルを下げられる

「現在、精液検査を行うには採精室や精液測定に必要な機器が必要で、不妊治療を専門とする医療機関以外では気軽に受けることはできません。また、精液は血液のように注射器で強制的に採取できるものでなく、正確な検査結果を得るには自慰行為によりご自身で1回射精分の精液を漏らさず採取していただく必要があります」

 検査とはいえ、医療機関で自慰行為をすることに恥ずかしさや屈辱感を感じる男性は多い。しかも精液検査で正確な結果を得るには、複数回の検査が望ましいとされ、人によっては禁欲期間が必要になる場合もある。

「毎日射精している人は恥ずかしがらず、そのこともお話しいただく必要があります。精液検査は採取精液を検査技師が顕微鏡や精子数計測用計算盤を用いるなどして調べます。まずは精液の外観の異常や出血の有無、色、量などを見ます。大切なのは精液の中にいる精子の数、運動性、運動速度、奇形の有無などです。これらは公的保険が適用される顕微鏡による肉眼的検査で行います。ただし、精子の運動性や運動速度などはヒトの肉眼的所見だけでは正確性に限界があります。そのため保険適用外である精子自動分析装置などを使う医療機関もあります」

 こうした精液検査の必要性を認識していても、一度検査を経験すると二度としたくない、という男性も多く、不妊治療の障壁になっている。小林医師はこうした男性不妊治療の障壁を解消するため、ソフト開発やデータ解析を行う民間会社との共同研究を行っていて、オリジナルのAI予測モデルの商品化を進めているという。

「AI予測モデルの商品化により、男性不妊の認識が変われば、ハードルの高い精液検査をより身近に感じてもらえるはず。それは不妊治療を前進させ、少子化対策の一助になるのではないか、と期待しています」