認知症の人を追い詰める「言ってはいけない言葉」とは?

AI要約

認知症の早期警告サインについて紹介。

認知症グレーゾーンとは何か、そしてUターンするためのヒント。

失敗や間違いに対する対応方法や口頭でのコミュニケーションの重要性。

認知症の人を追い詰める「言ってはいけない言葉」とは?

「パック入り卵を4日連続で買ってしまった」「身近な人の名前が出てこない」など、最近何かがおかしいと感じることがあったら……それは認知症の警告サイン!?正常な脳と認知症の間にある〝認知症グレーゾーン〟かもしれません。

ちょっとおかしいという異変に気づいたら、認知症へ進む前にUターンできるチャンス!

認知症の分かれ道で、回復する人と進行してしまう人の違いは何なのか。40年以上、認知症の予防と研究に関わってきた認知症専門医の朝田隆さんによる著書『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』から一部を抜粋・編集し、健康な脳に戻るためのヒントを紹介します。

失敗や間違いは「叱るより、ほめたおす」

■「なんで」「どうして」は本人を追い詰める言葉

認知症グレーゾーンになると、失敗したり、間違えたりすることが頻繁に起こります。それは本人も自覚していて、「なぜこんな簡単なことができないんだ」と、内心もどかしく思っています。

そうしたときに、〝不本意な失敗〟を指摘されると、プライドが傷ついて怒りを抑えられなくなり、爆発してしまいます。

本人からすると、「おまえは何もわかっていない」「昔の自分はこんなではなかった」「自分はすごいことをしてきた人間なんだ」という自負があるわけです。

そんな気持ちを考慮せず、「なんで」「どうして」といった正論を言っても通用しません。周囲が批判的なことばかり言うと、本人は生活習慣の改善に取り組む意志も意欲も失い、認知症へまっしぐらです。

Uターンに導くには、否定したり、正論をとなえたりするよりも、一歩引いて本人が納得するようにうまく導くほうが得策です。

このときのキーワードは「叱るより、ほめたおす」。

Uさん(49歳・男性)は、昔と変わってしまった父親(76歳)に対し、最初はイラついてばかりいました。しかし、本人が今、まさにグレーゾーンの状態にいることがわかってから、〝ほめたおし〟作戦を試してみることにしたのです。

たとえば、父親がレジの若い店員の対応が気に入らなくて暴言を吐き、帰宅したあとも怒りがおさまらず、「とにかく態度がなってない」と家族に訴えたことがあったそうです。

Uさんからすると、「それは親父がおかしい」と思ったものの、頭から否定するのではなく、「そうだね。年配の人に対してそんな態度をとるのはおかしいよね。その若い人も勉強になったと思うよ。すごいじゃん」と、まずはほめたといいます。

すると、父親はちょっと戸惑いながらも、気持ちを理解してもらったことで満足したのか、「そうだよな。おまえもそう思うよな」と、怒りがおさまったそうです。

そのタイミングでUさんは「でもさ、若い人にあんまり強い言葉で言うと怖がってしまうから、もうちょっとやさしい言葉で言ったほうがわかってくれるんじゃないかな」と伝えたところ、父親は何も答えなかったものの、納得した顔でおとなしく自分の部屋へ戻っていったといいます。

■ほめたおしは「利他・互恵」の極意

もちろん、そんなことが何度も繰り返されたら、毎回、寛容に対応するのは難しいかもしれません。

そうしたときは、「利他」「互恵」を思い出してください。

親御さんが理不尽なことを言いだしたら、一度深呼吸をして、「これは利他だ」「いずれ互恵につながる」と考え、「自分のために相手をほめるのだ」と思い直すのです。

すると、腹立たしさも不思議とおさまっていきます。実際にUさんの父親も、ほめたおし作戦を実行してからは、不安定だった状態が安定するようになったそうです。

少なくとも、ほめたおしていれば、怒りの矛先があなたに向くことはありません。

家の中でのもめごとは減り、おだやかな日常を送ることができます。

そして、自分もいずれ年をとったら同じようなことを子どもにするかもしれないと考えると、親の理不尽な言動を自分事としてとらえることができるでしょう。

☆ ☆ ☆

いかがだったでしょうか?

「おかしい」と感じてから専門の医療機関を受診するまでに、何と平均4年かかるというデータもあるそうです。その間に、認知症の症状はどんどん進行していってしまいます。

認知機能をセルフチェックし、正しい生活習慣を身につけるためのヒントが詰まった一冊『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』。ぜひ書店でチェックしてみてくださいね。

認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること

発行所/株式会社アスコム

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著者/朝田 隆(アスコム)

認知症専門医

東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会 理事長、メモリークリニックお茶の水院長

1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年に筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。

アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。