「死にたくなるので、困っている」うつで苦しんだ経済学者が語る、息子からの「告白」

AI要約

経済学者で東京大学に所属後、イエール大学で教鞭をとり、内閣官房参与として活躍した浜田宏一さんが、躁うつ病に苦しんだ過去と家族の話を通じて、うつ病についての正しい理解を広める書籍が『うつを生きる 精神科医と患者の対話』。

精神科医として浜田さんを支えてきた内田舞さんが、躁うつ病に苦しむ患者のサポートを通じて、患者の思いや心の負担を軽くするために誠実に向き合う姿を紹介。

経済学者として活躍しながらも、躁うつ病と息子の自死という悲劇に直面した浜田さんの人間ドラマを通じて、精神疾患や自殺に対する社会的認識の重要性を考えさせられる。

「死にたくなるので、困っている」うつで苦しんだ経済学者が語る、息子からの「告白」

経済学者で東京大学に所属後、イエール大学にて教鞭をとり、内閣官房参与として招聘されてアベノミクスを支えた――そんな方が、実は50歳を超えて躁うつ病に襲われ、精神病院への通院や投薬、入院を体験していると思うだろうか。

アベノミクスのブレーンだった浜田宏一さんは、その華々しい活躍の裏で長く躁うつ病に苦しんだ。その経験を中心に、自身の仕事の話、家族の話など小児精神科医の内田舞さんを利き手に語った書籍が『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)だ。

内田舞さんが浜田さんと出会ったのは4歳のとき。母であり、同じく精神科医である千代子さんが浜田さんと交流を持つようになってからの付き合いなのだという。内田さんは30年らい浜田さんの主治医をつとめているマイケル・ボルマー医師とも話をしたうえで、この対話に向かった。

この一冊からは、うつというのが誰でもなりうる病気であるかをはじめとしたうつに対する正しい知識を得られるとともに、経済やジェンダーについてのことも考えさせられる。

浜田さんは経済学者として大きな功績を残しながらも、躁うつ病と長く闘った。そしてその渦中に、息子の広太郎さんを自死の形で失っている。本書から抜粋記事の第1回では、そのつらい思い出についてお伝えする。

内田これから、広太郎くんの死について伺いたいと思います。ただその前に少しだけ、私が診察で出会った患者さんのお話をしてみてもいいでしょうか。

浜田はい、もちろんです。

内田最近、実のお母さんを亡くされた悲しみで診察をするようになった小学生の女の子の患者さんがいらっしゃいます。私としては、診察の中でその出来事について語ってもらうのは、患者さんにもう一回悲しい思いをさせることになって大変心苦しい。でも彼女の精神科にまつわる歴史の中でとても大切な出来事だから、全くその話題を避けることは治療の上でも効果的ではなく、ときには正面から聞かなければならないときもあるんです。その際には、私が彼女とお父さんをサポートできるように言葉を一つひとつ選びながら、丁寧にお話ししたんですね。

私自身、緊張するところもありました。でも、どうかこの会話を通して、この子が抱える苦しみや心の負担を少しでも軽くして、この辛い事実を受け入れながら前進できるようにサポートしてあげたいと思っていました。きっとボルマー先生も、浜田さんの息子さんの広太郎くんが自死によって亡くなったと聞いたとき、いろんなことを考えながら話されたんじゃないかなと思います。