連載終了後もなお人気の『グリーングリーングリーンズ』。若者たちは、ゴルフのどこに魅了されているのか?【書評】

AI要約

若年層にも広がりつつあるゴルフの魅力と、青春を描いた「グリーングリーングリーンズ」のストーリー。

主人公の成長や熱量、初期衝動を描いた作品としての魅力。

「人が何かにのめり込む」という体験を通じて、読者に共感を呼び起こす作品。

連載終了後もなお人気の『グリーングリーングリーンズ』。若者たちは、ゴルフのどこに魅了されているのか?【書評】

 スポーツの中でも、比較的年齢層が高いイメージのあるゴルフ。“おじさんのスポーツ”という印象を持つ人もまだまだ多いかもしれないが、実はここ数年、若年層のプレイヤーも増えているのだそう。

 若くしてゴルフの魅力に目覚め、その道を走り始める──そんな学生たちの青春を描いたのが、『グリーングリーングリーンズ』(寺坂研人/集英社)。「次にくるマンガ大賞 2024」コミックス部門にもノミネートされた、新しい時代のゴルフマンガだ。

 主人公・八枝崎珀(やえさきはく)は高校2年生。周囲の友人たちが徐々に将来を考え始めるが、特段自分には才能もやりたいこともない。そんな漫然とした日々を送る中、ふとしたことがきっかけでクラスメイト・王賀撫子がプロゴルフプレイヤーを目指し、渡米を希望していることを知る。

 ゴルフの何が、そこまで彼女を魅了するのか。最初はちょっとした興味でクラブを握りゴルフを体験してみた八枝崎だが、次第にゴルフを通じて自身が成長、変化していくことに喜びを感じるようになる。

 そんな八枝崎に最初こそ反感の目を向けていた王賀。しかし彼女もまた全くの初心者であるはずの彼に、確かなゴルフの才能の片鱗を感じていた。

 もうちょっと、もうちょっとだけ。そうして度々ゴルフを楽しむうちに、八枝崎は着実にその世界へとのめり込んでいく。

 その中で王賀をはじめとした、ゴルフに情熱を燃やす同世代とも出会う彼。そうして少しずつ、八枝崎の世界はゴルフを通して変わり始める──そんな作品となっている。

 古くは『あしたてんきになあれ』(ちばてつや/講談社)や『プロゴルファー猿』(藤子不二雄Ⓐ/小学館)、直近でも『KING GOLF』(佐々木健/小学館)や『ROBOT×LASERBEAM』(藤巻忠俊/集英社)など。これまでもゴルフマンガの系譜からは、数々の作品が世に生み出されてきた。

 だがゴルフという題材以上に本作の魅力として大きいのは、やはりゴルフにのめり込む八枝崎を通じて、「人が何かにのめり込む」熱量や高揚感、その初期衝動を追体験できる点だろう。

 学生時代、あるいは大人になった今でも、自分が秀でた一芸の持ち主だという自覚を持つ人はきっと少数派だ。スポーツや音楽、勉強。どんなジャンルにも上には上がいて、自分は到底そこには及ばない。そんな挫折や諦めの経験も、人生においてはある種普遍的なイベントのひとつである。

 しかし他者との比較なんて関係なく、“自分が楽しいと思う”からやる。今もそれを続けているかは別として、これまでの人生でそういった事象と出会った経験のある人も、おそらく多いのではないだろうか。

 過去と現在を比べ、誰よりも自分で自分の成長がよくわかる。

 それに打ち込んでいる時は、本当の自分でいられる気がする。

 特に学生時代、部活や趣味をはじめとして何かに打ち込んだ機会がある人ほど、そんな経験に覚えのある人もいるはずだ。

 将来を考え始めた時、ストイックにそれを追求する気力はなく、仕事にはできなかった。あるいは成長の中で別のものへと興味が向き、今はもう全く縁がない。当然そんな人も多いかもしれない。だが夢中になった対象自体はもう手元になくとも、“何かに夢中になった経験”自体は、確かにその人自身の今を形成する要素のひとつになる。作品を読んでいて、その当時の思い出や感情がふと胸をよぎる人も大勢いることだろう。

 物語も動き、着実にマンガファンからも人気を集め始めていた本作だが、惜しむべきことに2024年6月で連載の終了が発表された。

 最終巻となる第2巻は7月4日に発売。一度でも作品に触れた方にはぜひ、短くも確かな成長の兆しを見せた八枝崎の歩みを最後まで確かめてほしい。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ