〈解説〉「コカイン・シャーク」、野生のサメで初の報告、危険度や解決策を研究者に聞いた

AI要約

リオデジャネイロ沖でコカインを検出されたサメの研究が行われた。

コカインはサメの体内で検出され、影響は不明だが深刻な可能性がある。

コカインの汚染経路やサメの健康への影響が調査され、都市汚染が問題視されている。

〈解説〉「コカイン・シャーク」、野生のサメで初の報告、危険度や解決策を研究者に聞いた

 B級映画の筋書きのように聞こえるかもしれないが、ブラジル南東部に位置するリオデジャネイロの沿岸海域には「コカイン・シャーク」が出没している。

 サメ「ブラジルヒラガシラ」(Rhizoprionodon lalandii)を分析した最新の結果から、違法薬物のコカインが海に入り込み、体内を汚染していることが野生のサメで初めて明らかになった。論文は学術誌「Science of The Total Environment」に7月23日付けで発表された。

 この研究では、2021年9月から2023年8月にかけて、リオデジャネイロ近郊で真珠のように白く長い砂浜があるレクレイオ・ドス・バンデイランテスの沖で、漁師が誤って捕獲した13匹のサメを解剖した。

 その結果、13匹すべての筋肉と肝臓から、コカインとベンゾイルエクゴニン(コカインが体内で分解されたときに生成される代謝物質)が検出された。

 医薬品の廃棄物は、それが合法であれ違法であれ、海や川、湖の野生生物にとって問題となる。ロンドンなどの大都市近郊や米フロリダ州の沖でも、コカインをはじめとする違法薬物の痕跡が検出されている。

 コカの葉から抽出される興奮剤であるコカインがブラジルヒラガシラにどのような影響を与えるかはまだわかっていない。ブラジルヒラガシラは、主に乱獲によって減少しており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは危急種(vulnerable)に指定されている。

 リオデジャネイロにある連邦公衆衛生研究施設であるオズワルド・クルス研究所の生物学者であるレイチェル・アン・ハウザー・デイビス氏と生態毒性学者であるエンリコ・サッジョーロ氏は、「今回の研究では、サメの健康状態は分析していない」と指摘している。

 しかし、コカインにさらされたゼブラフィッシュやムール貝がダメージを受けたという過去の研究結果から、悪影響は「あり得る」と研究チームは考えている。実際、魚の目に関するほかの研究では、コカインが魚の視力と狩猟能力に影響を与えることがわかっている。

「繁殖や被食者と捕食者の相互作用など、サメの健康にはいくつかの問題があります」と研究チームは述べている。

 今回の研究では、13匹のサメすべてについて、ベンゾイルエクゴニンよりコカインの濃度が約3倍高いことも判明した。このことは、コカインのほとんどは人やほかの生物の体内で代謝されないことを意味する。一部は直接、水中に投棄された可能性もある。

「人の尿に含まれていたと予想できるので、海中でコカインの代謝物質が検出されてもまったく驚きませんが、『コカイン』が検出されたことには驚いています」と米フロリダ大学の海洋学者であるトレイシー・ファナラ氏は話す。

 論文によれば、「ブラジルは南米最大級のコカイン消費国で、全世界の使用者のほぼ8%に相当する約150万人が使用している」

 コカインが魚の体内に入る経路は2つある、と研究チームは考えている。1つ目は、薬物使用者の排せつ物が下水道に流入する経路。2つ目は、レクレイオ・ドス・バンデイランテスで海に注ぐセルナンベティバ運河沿いの下水管に、「秘密の」コカイン精製所が純粋なコカインを廃棄する経路だ。

 ブラジルヒラガシラは通常、沿岸海域で暮らしているため、このような都市汚染の影響を特に受けやすい。