「ピカソの絵」を女子トイレに展示、男性は鑑賞できず。この作品、実は……

AI要約

タスマニア州にあるMONAで展示されていたパブロ・ピカソ作品が女性用トイレに移された経緯や、男性客の入場差別訴訟からトイレ展示の真相、そしてその取り組みに対する世間の反応についての物語。

アメリカ人アーティスト兼キュレーターが差別意識を呼び起こす独創的なアイデアを実行し、芸術ファンやメディアを賑わせた経緯。

この一連の出来事により、フェミニズムアートや性差別への意識が高まり、アート作品の真贋を問う重要性が再確認された。

「ピカソの絵」を女子トイレに展示、男性は鑑賞できず。この作品、実は……

オーストラリア南東、タスマニア州にあるミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニュー・アート(MONA)の斬新な展示方法が注目を集めている。

パブロ・ピカソによる作品を、女性用トイレの壁に飾ったのだ。もちろん、男性は入れないため鑑賞できない。

トイレにある作品3点は、もともと2020年MONAのインスタレーション「レディース・ラウンジ」で展示されていた。アメリカ人アーティスト兼キュレーターのカーシャ・ケイシェル氏が企画しており、深緑のベルベッド生地に包まれた豪華な部屋でアートを鑑賞しながら、男性バトラーが飲み物や軽食を提供してくれる……という体験型アート作品だ。

「あらゆる淑女のため」の「贅沢な空間」だと美術館は説明している。男性は入場できない。斬新なコンセプトだが、男性に対する差別だと反発の声もあった。

CNNによると2023年4月、35豪ドル(約3700円)の入館料を支払っても「レディース・ラウンジ」に入れないのは「直接的な性差別」だと、ある男性客が美術館を相手取り訴訟を起こした。タスマニア州民事行政裁判所は、「レディース・ラウンジ」は1998年制定の反差別法に違反すると判決を下し、男性客の入場も認めるよう美術館に命じた。

ケイシェル氏は裁判で、男性が入場できないという仕組みそのものがインスタレーション作品の一部であり、歴史を通して女性たちが経験してきた差別や排除を味わうためのものだと、意図を語った。

「レディース・ラウンジ」は閉鎖する運びとなったが、そこに展示していたピカソ作品の行き場がないと、ケイシェル氏は女性用トイレに飾った。判決への抗議とも言える。

だがこの話には、もう一つ展開がある。

MONAの「女子トイレ展示」が話題となった数日後の7月10日、ケイシェル氏がMONAのウェブサイトにブログを投稿。トイレに展示していた「ピカソの作品」としていた絵は、すべてケイシェル氏自身がオリジナルを模写して描いたものだと明かした。

ケイシェル氏は、この絵をトイレに飾るためだけに制作したのではない。「レディース・ラウンジ」が開いていた約3年にわたり、MONAで「ピカソの作品」として展示されていたのだ。

フランスのピカソ管理局から作品の真偽に関して問い合わせがあったため、タネ明かしに至ったという。

ケイシェル氏は「『レディース・ラウンジ』を訪れたピカソの研究者、単なるピカソファンが気づいたり、誰かが検索したりして、絵が逆さまになっている(もしくは偽物だ)とソーシャルメディアで暴露してくれるだろうと思っていた」と書いている。

「レディース・ラウンジ」に展示されていた宝石や毛皮なども、偽物だという。ケイシェル氏はブログの最後に「ピカソ管理局へ。お騒がせしてしまい申し訳ありません。偉大なアーティストに敬意を表します」と添えた。

ブログのコメント欄には、様々なコメントが書き込まれている。

虚偽の展示を「不誠実」だと非難する人もいれば、一連の騒動を「見ていて楽しかった!」「天才的で勇気あるアイデア」と称賛する人もいる。ユーモアと皮肉たっぷりに性差別へ意識を向けてもらうやり方に対し、アートファンからは好意的な見解が多いようだ。

いずれにせよ、ケイシェル氏の取り組みは世界各国のメディアで報じられており、話題性をさらいフェミニズムアートに注目させるという意味では、成功を収めたと言えるだろう。