倉田真由美さん、振り返る夫の最期「意識は戻ったけれど…」

AI要約

叶井俊太郎さんが深夜に昏睡状態に陥り、朝に意識を取り戻す。妻の倉田真由美さんは安堵する。

訪問看護師が夫の様子を見に来て低い血圧や変化に気づく。介助の仕方を指導し、妻は夫を支えることを決意する。

看護師が帰る際、夫との最後の会話を交わす。喜びと悲しみが混ざる中、夫の最期が訪れる。

倉田真由美さん、振り返る夫の最期「意識は戻ったけれど…」

 すい臓がんで闘病を続けていた叶井俊太郎さんは、2024年2月15日の深夜、昏睡状態に陥った。妻で漫画家の倉田真由美さんは傍らで見守り続け、やがて朝を迎えた。意識を取り戻した叶井さんは、4度目の余命宣告を跳ね返し――。その後のエピソード。

漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。

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 深夜自宅に来た訪問医に「朝までもたない」と言われ昏睡状態に陥った夫でしたが、日が昇る頃には呼吸も穏やかになり、その後目を覚ましました。

「俺、昨日ヤバかったよね」

「うん。危なかったよ」

 意識を取り戻し、介護用ベッドから私に話しかけた夫。「やった、夫が戻ってきた!」と、飛び上がるほど嬉しかったのを覚えています。朝日を見ることはできないと宣告されたのにまたしても復活した夫、これからもまだまだ生きるんだと私は安堵しました。

 私はキッチンに立ちコップに水を注ぎ、夫の口元に持っていきました。喉が渇いているはずでしたが、夫は口を湿らせる程度にしか飲めませんでした。

 その後、夫はまた目を閉じて眠ってしまいました。正確には、眠っていたのか、ただ目を閉じていたのか、意識を失っていたのか、分かりません。夫はこれ以降話すことはありませんでした。

 夜中に来てくれていた義妹は一旦帰宅して再度来る、ということでまた夫のそばにいるのは私だけになりましたが、昼頃には訪問看護師が夫の様子を見に来てくれました。

 いつもなら看護師さんに軽口を叩く夫ですが、この日は目を閉じたまま、話しかけてもほとんど反応がありません。でも、首を振ったり身体を動かすので眠っているわけではないことは分かりました。血圧は深夜よりはましになってはいたものの上が60台と、とても低い状態が続いていました。

 看護師さんに、今後の介助の仕方を指導してもらいました。夫は私たちに身体を預け、されるがままです。前日まで普通に話し、歩き、トイレもシャワーも自分でできた夫でしたが、これからは私が手伝うことになるのだなと腹を括りました。

 看護師さんが帰る時、夫に声をかけました。

「叶井さん、今日は帰るね。また来るからね」

 病んでいても陽気な夫と妙に気が合っていた看護師さんのよく通る声に、夫は手を上げて反応しました。聞こえていたし、意識があったんです。でも「バイバイ」と声を発することはありませんでした。

「俺、昨日ヤバかったよね」

「うん。危なかったよ」

 朝方交わしたこのやりとりが、夫との最期の会話になりました。

 思い出すと、夫の意識が戻って会話できたという喜びと、これが最期になったという悲しみが去来して、胸がいっぱいになります。