スパルタとアテネの戦いに記された謎の事象「二度なし」…2500年の時を越えついに解き明かされる「真実」

AI要約

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、自然炎症という新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなった。

免疫を学ぶとき最初に読むべき一冊として高く評価された入門書が最新の知見をふまえ、10年ぶりに改訂。

免疫という極めて複雑で動的なシステムの中で無数の細胞がどう協力して病原体を撃退するのか?わたしたちのからだを病原体の攻撃から守る免疫の基本的なしくみはどうなっているのか?本連載では、世界屈指の研究者達が解き明かした「免疫の最前線」を少しだけご紹介しよう。

スパルタとアテネの戦いに記された謎の事象「二度なし」…2500年の時を越えついに解き明かされる「真実」

20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動させることがわかり、自然炎症という新たな概念も加わり、制御性T細胞の存在は確かなものとなり、mRNAワクチンは現実のものとなった。

免疫を学ぶとき最初に読むべき一冊として高く評価された入門書が最新の知見をふまえ、10年ぶりに改訂。

免疫という極めて複雑で動的なシステムの中で無数の細胞がどう協力して病原体を撃退するのか?わたしたちのからだを病原体の攻撃から守る免疫の基本的なしくみはどうなっているのか?本連載では、世界屈指の研究者達が解き明かした「免疫の最前線」を少しだけご紹介しよう。

*本記事は、自然免疫研究の世界的権威審良 静男、B細胞研究の第一人者黒崎 知博、T細胞研究・炎症学研究の第一人者村上 正晃3名の共著『新しい免疫入門 第2版 免疫の基本的なしくみ』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

紀元前四三一年、スパルタを中心とするペロポネソス同盟軍は、アッティカ(現在のアテネ周辺)へ侵攻した。対するはアテーナイを中心とするデロス同盟軍。世にいうペロポネソス戦争である。ギリシアの覇権をかけた二七年におよぶ戦いは、アテーナイの降伏により紀元前四〇四年に終結。デロス同盟は解散した。

このペロポネソス戦争のほぼ全史を、トゥキディデスという人物が『戦史』全八巻に記録している。トゥキディデスはもともとアテーナイの指揮官だったが、命じられた植民地奪還をはたせず、アテーナイを追放になった。トゥキディデスの記述はきわめて客観的で、一級の史料として高く評価されている。

『戦史』には、ペロポネソス戦争のさなかにアテーナイを襲った疫病についてもくわしく書かれており、免疫を語るときによく引用される有名なくだりがある。

この病気に二度かかった者は一人もいなかったし、たとえかかっても二度目のものはけっして致死的ではなかった。

免疫に関する世界最古の記述の一つである。二五〇〇年も前に人類は、いまでいう「二度なし」の現象を観察し、記録していた。

『戦史』には、トゥキディデス自身もこの疫病にかかり、九死に一生を得たと記されている。しかし、この疫病が何であったかは不明だ。