「遺産相続のときはたくさんもらってね」と介護を任せきりだった姉と弟に手のひら返しされました。介護をした人が取り分を多くできる法律はありませんか?

AI要約

介護の問題から始まる遺産相続争いについて、介護をした人が多く相続分をもらえる法律は存在しないことが解説されている。

特に、介護をした人に対する相続分の増加を求めた場合、他の相続人との葛藤が起こる可能性が高いことが示唆されている。

記事では、介護をした人に対する金銭的援助や、実家暮らしの経緯が相続分に対する他の相続人の考え方に影響を与える事例が具体的に紹介されている。

「遺産相続のときはたくさんもらってね」と介護を任せきりだった姉と弟に手のひら返しされました。介護をした人が取り分を多くできる法律はありませんか?

 多くの人が直面する介護の問題。しかし、看取りが終わっても、一息つく間もなくドロドロの遺産相続争いが始まることもあります。そうならないためには、どんな用意をしておくべきなのでしょうか。豊富な実務経験がある税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが、お悩みを基に解説します。

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「“ピンピンコロリ”で逝きたい」

 亡くなる寸前まで元気に生活して、コロリと逝く。こう望んでいる人は多いでしょう。でも、実際はそうはいきません。

 厚生労働省の発表では、2024年4月時点で介護保険制度における要支援者または要介護者と認定された人は、710.1万人! また、2023年9月時点の年代別の人口に占める要支援・要介護認定者の割合は、80~84歳で26.0%、85歳以上で59.5%の人が介護保険のお世話になっています(公益財団法人生命保険文化センター公式ウェブサイトより)。

 このように、長寿大国・日本では、介護状態になってから亡くなる人が増えています。そして、介護を経た相続はトラブルに発展することが多々あるのです。

「姉も弟もひどいんですよ。父の介護を私に押しつけて、めったに顔も出さなかったくせに、今になって『父の財産は法定相続分通りに分けよう』なんて言い出して……。私が父の介護をしてもいいと言ったときは、『相続のときはたくさんもらってね』なんて言っていたくせに……。介護をした人がたくさん相続できる法律はないんですか?」

 相談者は、有田千絵さん(仮名・52歳)。千絵さんには姉と弟がいます。姉は結婚して夫の両親と同居。弟は賃貸マンションで妻と二人暮らし。千絵さんは独身で実家暮らしです。

 結論からいうと残念ですが、介護をした人がほかの相続人よりも多く相続分をもらえるというはっきりとした法律はありません。過去に、重度の認知症の老人を10年以上介護していた人が相続分を争って裁判を起こした判例がありますが、1日数千円程度の寄与分(相続の上乗せ分)を認めてもらう程度だったといいます。

 実際、それよりも負担の軽い介護だった場合、裁判を起こしても思うような相続分の上乗せを認めてもらうことはできないようです。もし「介護した分たくさん相続でもらいたい!」のであれば、ほかの相続人(千絵さんの場合、姉と弟)に譲ってもらうしかありません。しかし、その姉と弟の言い分は世知辛いものでした。

「父が倒れたと聞いたときは本当に驚いて、千絵が『会社を辞めて父の面倒を見てもいい』と言ってくれてほっとしたのは事実です。でも、父はまったく動けなかったわけではないし、昼はデイサービスを使っていたんだから、そんなに大変だったとは思えません」

 さらに、千絵さんがずっと実家暮らしだったことも理由に挙げています。

「だいたい、千絵はずっと実家で、親がかりで生活していたんだから、たくさん預金があるはずでしょう。退職金だってたくさんもらったと聞きました。私たちは独立してから親に援助してもらったことはありません。それを考えたら、法定相続分通りの相続でいいと思っているんですよ」

 千絵さんは、生まれてからずっと実家暮らし。自分の給料はすべて自分のもので、家では上げ膳据え膳、洗濯も掃除も家事全般をすべて両親がしてくれていました。しかし、母親は3年前に他界。そして1年前、父親が倒れて要介護状態になったのです。

 みなさん、この話を聞いてどう思いますか? どっちの言い分にも一理あるような気がしますよね。こうなると、話し合いで財産の分け方を決めるのは困難を極めそうです。