人生の質を上げるには「自分の機嫌をよくするスキル」が絶対重要…ごきげんの究極形「ゾーン状態」に入る方法

AI要約

人間は心の生き物であり、心の状態をマネジメントすることが重要である。

「機嫌」という言葉が心の状態を最適に表現する日本語である。

「フロー状態」や「セルフイメージ」など、心の状態がパフォーマンスに与える影響が重要である。

幸福な人生を送るには何が必要なのか。産業医の辻秀一さんは「どんなにやりたいことをやっていても、心が“ごきげん”な状態でなければ人生の質は低下する。自分の機嫌を自分でとれる人は、周囲の人も幸せにする」という――。

 ※本稿は、辻 秀一『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■「気分」と「機嫌」はどう違うのか

 人間は心の生き物だ。つまり、何かを感じて生きている。さまざまな感情を抱いて生活し仕事をしているのだ。その心の状態をどう表現してマネジメントするのか?

 日本では、心の状態を「気持ち」とか「気分」とかで表現してきた。ただ、「気持ち」も「気分」も心の状態だけでなく、じつは「考え」、つまり「思考」も入ってしまっているのだ。

 今は休みたい気分。これは心の状態ではなく「考え」だ。みんなを喜ばせたい気持ち。これも明らかに「思考」のことをいっている。

 そこで日本には、心の状態を表現する最適な用語の1つとして「機嫌」という言葉がある。

 「機嫌」は間違いなく心の状態を示していて、わたしたち日本人なら、胸の辺に感じるものだ。

 「機嫌がいい」とか「機嫌が悪い」という感じは、胸のあたりの心の状態を表現している。

■セルフイメージの大きさが心の状態の安定を示す

 わたしがこうした勉強をはじめたころ、モントリオールオリンピックの射撃の金メダリストのラニー・バッシャム氏は「セルフイメージ」という言葉で心の状態をとらえようとしていた。心の状態の揺らぎを言い表すために、「セルフイメージ」が大きくなったり、小さくなったりするというように、理解し伝えていた。

 ネガティブな感情が起こって心に揺らぎが生じていると、「セルフイメージ」は小さくなると。その「セルフイメージ」の大きさが心の状態の安定感を表すのだという説明だ。その大きさに応じて、パフォーマンスのレベルが決定する。

 ラニー・バッシャム氏のその理論がわかりやすく、拙著『スラムダンク勝利学』でもその理論を使って心の状態とパフォーマンスの関係を描いている。がしかし、しだいに心の状態の表現は「揺らぎ」だけではなく、「囚われ」という概念もあると思うようになった。

■自分らしいパフォーマンスができている「フロー状態」

 たしかに、「囚われ」の心の状態は自分らしさをなくしている。そんなことを考えているとき、シカゴ大学で行動科学を専門とするチクセントミハイ教授の「フロー理論」を目にした。仕事の職種や場面、地位に関係なく、またスポーツでも競技種目やポジションに関係なく、さらには音楽でも楽器や弾いている曲に関係なく、自分らしいパフォーマンスがインプットやアウトプットされているときは、みな同じ心の状態にあるという考えだ。

 そのようなときは、「流れるかのごとく」と表現して説明した人がアンケートで多く、その心の状態を「フロー」と呼称した。まさに、その心の状態を「揺らがず囚われず」の心の状態とわたしは理解した。

 チクセントミハイ教授は、そのような心の状態がどのようなときに生じるのかを研究され、たとえば自身のスキルレベルと自分の取り組んでいるパフォーマンスの課題のバランスが整っているときと述べていた。そして、「フロー」は無我夢中の状態でもあるとも。かなり、多くの人が知っている概念、「ゾーン(Zone)」に近い心の状態だ。

 400年も前に、日本でも宮本武蔵が晩年したためた『五輪書』の、「心」のことを述べている「水の巻」に同様のことが書かれている。流れる水のごとしの心の状態でないと天下無双は手に入らないばかりか、真剣勝負の世界では死ぬと。たしかにその通りだが、わたしはもう少しライトにとらえることはできないだろうかと考えたのだ。日常的にだれにでも関心を持ってもらえる概念だ。

 チクセントミハイ教授のようにフロー状態を条件によるもので、かつ究極なところの心だと解釈すると、メンタルトレーニングを進めていくうえで多くの人に汎用的に理解してもらうことは難しいと考えるようになった。