17年で生涯を終えたアシュリーが残してくれたものは 老化を抑えるエピゲノム研究

AI要約

エピゲノムとは、遺伝子の発現の仕方の変化を表す言葉で、良い老化の実現に重要。早野元詞氏は、新著『エイジング革命』で老化の要因を料理本に例えた解説を行う。

プロジェリア症候群に罹ったアシュリーの人生が老化の謎を示し、人はいかに生きるかが重要であることを示唆。15年の短い人生を自分らしく生きたアシュリーの姿勢に学ぶ。

人は何年生きるかではなく、いかに生きるかが重要。時間の価値を科学とイノベーションで高め、老化への観念を変えていくことが可能である。

17年で生涯を終えたアシュリーが残してくれたものは 老化を抑えるエピゲノム研究

 「エピゲノム」という言葉をご存じだろうか。遺伝子の発現の仕方の変化を表す言葉で、より良い老化を実現するためには重要なキーワードだ。生命科学者の早野元詞氏は、「エピゲノム」を料理本に喩えることで老化の後天的な要因を解説する。早野氏の新著『エイジング革命』(朝日新書)から、一部抜粋・再編集して紹介する。

* * *

■アシュリーの教え

 さまざまな論文を調べている中で、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群に罹ったアシュリー(アシュリー・ヘギ〈Ashley Hegi〉1991年生まれ、2009年没)の存在を知りました。テレビのドキュメンタリーで紹介され、『アシュリー―All About Ashley』(扶桑社/2006年)という本もあるので、ご存じの人も多いと思います。

 アシュリーは、健常人の10倍近い速度で老化が進み、17年の生涯を終えました。けれども決して人生を悲観したりしなかった。

「生まれ変わっても、また自分を選ぶ。だって、私は私であることが好きだから。(I’ll choose me again,because I like who I am.)」

 そういって笑うアシュリー。たとえ長生きしたとしても15年ほどで死を迎えなければならない病。幼い頃からそれを熟知し、「誰だって完璧じゃないもの」と事実を受け入れる。そんな彼女は小さな生き物を愛し、周囲に毎日笑顔を与えていた。

 プロジェリア患者として「異例の長寿」といわれた彼女の一生は、老化の謎に一つの答えを与えていました。

 人は、「何年生きるかではなく、いかに生きるか」なのだと。

 生きている時間の過ごし方が、人間の老化であり成熟なのだと。

 だとすれば、できるだけ長くより自分らしく生きることができれば、老化に対する観念が変わるのではないか。科学とイノベーションによって、時間の価値を高められるのではないか。次第にそんな思いに突き動かされ、老化研究を専修としたのです。