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「遺言さえあれば…」不動産相続で大もめ 相続人が10人 5年たっても解決のめど立たず 実録・相続登記
不動産の相続手続きが義務化され、所有者不明の土地が増加。記事では、女性が5年かけても解決できない相続問題を抱える姿が描かれている。
相続関係図を1年かけて作成し、相続人の同意を得る過程で問題が発生。3年以内に相続登記を完了しなければ過料が科される可能性も。
女性は調停を考えるほどの困難を抱え、遺言があれば問題が緩和された可能性があると語る。
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今年4月から、不動産(土地、建物)の相続に、3年以内の登記申請が義務化された。登記せずに放置され、誰が所有者か分からない土地が増えているためだが、相続人が親族に枝分かれして多数に上れば、いざ手続きに着手しても、作業には多大な手間と時間がかかる。神戸市の女性(64)は、大叔母の残した不動産の相続に5年をかけても解決していない。(斉藤正志)
■大叔母の土地、建物
土地は神戸市中心部にあり、1950年代に建築された木造2階建て店舗が立つ。現在、この建物を貸し、飲食店として利用されているという。
女性の大叔母の名義だが、女性の80代の母が建物の修繕、家賃の管理、固定資産税の支払いなどを担ってきた。母は大叔母のめいに当たり、大叔母の身の回りの世話をしていた。
2005年に大叔母が亡くなった後も、母が建物の管理をしていた。母が高齢になり、土地、建物を買い取りたいという人が現れたため、女性は19年、母に代わって相続登記を進めることにした。
■相続関係図を1年かけて作成
司法書士に登記の手続きを依頼。司法書士は、大叔母の戸籍謄本を取るなどして、まずは相続人が誰なのかを調べた。
その結果、相続人は女性の母を含めて10人に上ることが分かった。相続人の氏名や続き柄などを整理した「相続関係図」を作るまで、約1年もかかった。
大叔母に夫はおらず、子もいなかった。このため、大叔母の兄弟姉妹8人に相続権があったが、全員亡くなっていた。その場合、権利はそれぞれの子どもに移る。
大叔母から見て、おい、めいに当たる計7人が相続人に。さらに、亡くなっていたおいの妻と、その子2人の計3人も対象になった。
女性は母を除く9人に直接電話。土地、建物を売却して現金化し、法律上の持ち分に応じて分けることを提案した。その結果、5人の了解は得られたが、4人は同意しなかった。
4人は、数十年前に土地を取得し、建物を建てた際、自分たちの親が出資しているなどと主張。女性の母らに所有権はないと訴えた。
■「親戚付き合いをやめる」
女性は何度か書面でやりとりしたが、話はこじれ、一人からは「親戚付き合いをやめる」と通告された。
24年4月からは相続登記が義務化され、過去の相続も対象になった。3年間の猶予期間があるとはいえ、27年3月末までに登記できなければ、10万円以下の過料が科される可能性があることも伝えている。
ここ1年以上は連絡も取れていない。
女性は「母は争うことを望んでいない。母が元気なうちに相続登記をしないと、もっとややこしくなる。私の子どもにまで問題を引き継ぎたくない」と胸の内を明かす。
女性は言った。
「大叔母が遺言を残して、相続させる相手を特定していれば、こんなに大変な作業にならなかった。もう疲れてしまった」
女性は、家庭裁判所に調停を申し立てることを考えているという。
司法統計によると、遺産分割に関する家庭裁判所への調停申立件数は、05年に1万130件だったが、23年には1万5750件と約1・6倍に増えた。インターネットの普及などで、法律を調べて、相続の権利を主張する意識が高まっているとみられる。