ベテラン看護師が語る…意識のない夫を「諦めきれなかった」妻がすがった延命治療と、最愛の人を「後悔なしで見送る」ために「必要なモノ」

AI要約

ご高齢者が自宅で最期を迎えることを望んでいても、救急車を呼んでしまうケースがあることを防ぐためにはどうしたら良いか。

ALSと闘う患者が在宅で最期を迎えるため、訪問入浴を利用していたが、救急車の呼び出しに関する意思疎通の問題が生じた事例。

救急車の本来の目的や在宅医療関係者の意見を踏まえながら、自宅で最期を迎えるための「意外な落とし穴」について考察。

ベテラン看護師が語る…意識のない夫を「諦めきれなかった」妻がすがった延命治療と、最愛の人を「後悔なしで見送る」ために「必要なモノ」

 「ご高齢でも、まだまだ元気な方たちに『最期はどうしたいですか? 』と聞くと、ほとんどの方が『住み慣れた我が家で…』と答えます。ところが自宅で最期を迎える覚悟を持っていたはずでも、気が動転して最後の最後に救急車を呼んでしまい、病院で亡くなるというケースがどうしてもあります。

 それを防ぐためにも皆さんは部屋に緊急連絡先を書いて貼りつけるなどの対策もしているのですが、それでも残念ながら起きています」

 こう話すのは、訪問入浴を通じて1万人以上の患者と接して見送ってきた、株式会社ウィズの代表看護師・武藤直子氏だ。

 山下茂雄さん(仮名・享年82)は、長くALS(筋萎縮性側索硬化症)と戦っており、気管切開をして人工呼吸器を装着している状態だった。意思疎通は難しく、それでも夫を愛してやまない妻(70歳)は、ヘルパーを入れながら在宅で面倒を見続けていた。

 奥さんは「夫の日常」を諦めておらず、「主人は湯舟に浸かることが好きだったから」と、末期がんや難病患者でもお風呂にいれる技術を持っている武藤氏に訪問入浴を依頼し、「次に呼吸が止まったとき、それが天寿」であることを理解したうえで、週に1回、茂雄さんをお風呂にいれて、自身も一緒に身体を拭いていたという。

ところが入浴中にいざ呼吸が停止すると、「救急車を呼んで」とパニック状態に陥る。一方で訪問医やケアマネは「奧さんとは十分に話し合った。救急車を呼ぶ必要はない」と言い出し、武藤さんは板挟みの状態になった。

 そもそも救急車は、命を繋げるために呼ぶものである。臨終が近づき、本人が死を受け入れたあとは、望み通りに自宅で最期を迎えるためにも「救急車を呼んではいけない」と多くの在宅医療関係者が口にしている。それをわかっていながら呼んでしまった背景には、どんな「見落とし」があるのか――。

 「おむつとシーツが真っ赤に染まって血の海に…自宅での最期を希望していた最愛の夫が、まさかの「病院死」…妻が気づけなかった「意外な落とし穴」」に引き続き、実例を交えながら解説して貰った。