看取り医が驚いた…!「ヘルパーに頼ること」を拒む88歳女性を心変わりさせた「意外な日常風景」

AI要約

看取り医として、終末期における患者さんの自宅でのケアについての課題や考えが語られている。

高齢者の介護サービスへの抵抗や心理状態、身体の変化について触れられている。

88歳を超える女性の事例を通じて、認知症や転倒リスクが高まる高齢者の状況が描かれている。

看取り医が驚いた…!「ヘルパーに頼ること」を拒む88歳女性を心変わりさせた「意外な日常風景」

 私は訪問診療を生業とする看取り医として、患者さんには住み慣れた“我が家”が、終末期においても心安らぐ場所であり、人生の総仕上げにもふさわしい場所になって欲しいと願っている。

 そのためにも時期がきたら介護サービスを使って、介護ベッドや手すりを利用したり、ヘルパーを入れて生活介助して貰ったり、あるいは訪問入浴で心と体をリフレッシュして頂きたいのだが、これがなかなかうまくいかない。

 とくに団塊の世代より上のお年寄りは、介護サービスを生活保護と同じようなものだと勘違いされている方も多いため、説得はより困難となる。週2回でもヘルパーを入れたほうが心身にゆとりを持てることが間違いない状況でも、

 「私はね。国の世話になるほど落ちぶれちゃいないんだよ」

 と抵抗されることが多いのだ。

 抵抗される理由の裏には、自身の老化を認めて、受け入れたくないという気持ちがあることも多い。

 例えば、今は元気な人でも、年を重ねればいつかはオムツを受け入れなくちゃならない時期がくるものである。それはどうしようもないことだ。しかし、「オムツだけは絶対に嫌だ」と言って、トイレまで無理して歩こうとして転んで大腿骨を骨折してしまったというパターンは嫌と言うほどみてきた。

 人にはシーソーでうまくバランスをとるように、体温や呼吸数、血圧など、身体を一定に保とうとする力が元々ある。若い頃は夏に気温が高かったり、運動をしたりして熱が出たとしても、正常な状態に戻そうと体が自然に調節してくれるものだ。若い頃はほっといてもシーソーにうまく乗っていられるのである。

 ところが高齢者になると、そうはいかなくなる。戻す力が弱くなり、何もしていなくても体温や血圧が急に上昇したり、下降したりする。熱中症や脱水症状にもなりやすく、体調が崩れてしまう。器用な人、不器用な人がいて、認知症や癌になってもシーソーから落ちなければ生命は続くが、どう頑張っても、いつかは落ちる。

 88歳をこえた女性、モトさんもそのひとり。転倒もしやすくなり、認知症によって独居も困難になりつつあるが、自宅にヘルパーを入れることを拒んでいた。

 その日も往診に行くと、私のために紅茶を入れようとしてくれて、台所に入ったもののいつまで経っても戻ってこなかった。「お母さん、どうしたんですか?」と声を掛けにいくと、立ち尽くしたまま「私、ここに何をしに来たのかしら」と言い出した。

 私が「紅茶を入れようとしたのではないでしょうか」と言うと、「紅茶はどこにあるのかしら」と紅茶を探し出し、私が棚から取り出すと「紅茶ってどう沸かすのかしら」という調子で、記憶が飛んでしまっていたのである。