「描くのに水ほど興味があり、困難なものはない」日本画の新境地開いた大分出身の画家・福田平八郎

AI要約

福田平八郎の回顧展が大分県立美術館で開催中。写実と装飾性を融合させた独自の表現や絵画の制作過程が展示されている。

展示作品には、初期から晩年までの約100点が含まれ、作品毎に詳細な観察と技術が窺える。

特に「新雪」や「鯉」などの作品は、福田の巧みな色使いと表現力が光る代表作である。

 大正から昭和にかけて、卓越した観察力と大胆な構成で日本画の新境地を開いた福田平八郎(1892~1974年)の回顧展が、出身地・大分市の大分県立美術館で開かれている。写実と装飾性を融合させた独自の表現を獲得する過程を、同館が多く所蔵するスケッチとともに見ることができる。(白石知子)

 庭石に降り積もった雪を描いた「新雪」(1948年)は、雪が降りやんだ直後の結晶の輝きや軽さも表現されている。明るい紫色の下地を30回塗り込み、胡粉を置いて刷毛でたたく作業を繰り返して描いたといい、内側から銀色に発光しているようにも見える。人が化粧する時、肌の透明感や明るさを出すために、紫色の下地を塗った上から粉をはたくのと同じ効果だ。

 一見、造形を簡略化した絵画のようにも思えるが、石の上や土の上の雪を徹底した観察によって描き分けた。福田は「どうだろうか、写実が出過ぎてはいないだろうか」と気にしていたという。

 この作品は、自らも審査員を務めた日展で発表した。回顧展では、初期から晩年までの素描を含む約100点と、写生帖を入れ替えながら展示している。

 制作年が確認できる中で最も初期の「野薔薇」(13年、16日まで展示)は京都市立美術工芸学校時代の作品。満開の野薔薇やミツバチが丹念に描写されており、画力の高さが伝わる。琳派などの伝統的な日本画を学びながら、新進気鋭の日本画家たちからも刺激を受け、作風を模索した。

 画壇での評価を決定づけたのが、第3回帝展で特選を受賞した「鯉」(21年、展示終了)だった。水面の波紋を描くことなく、鯉の色の濃淡を変えることで水面からの深さの違いを描き分け、リアルに見せた。福田は「描くのに水ほど興味があり、また水ほど困難なものはない」と語っており、生涯を通じて描き続けた。

 波打つ水面を群青の太い線で表現した代表作の重要文化財「漣」(32年、28日から展示、縦156・6センチ、横185・8センチ)は、金箔の上に貼ったプラチナ箔の上から描いたものだ。琵琶湖へ釣りに出かけた際、太陽の光が映った水面が鏡のように銀色に見えたことから着想した。