「Magic V3」開発の道のり--超薄型折りたたみスマホはどうして生まれたか(後編)

AI要約

栄耀(Honor)による超薄型の折りたたみスマートフォン「HONOR Magic V3」の開発道のりについて紹介。

カメラバンプの突き出しやバッテリーの薄さなど、Magic V3のデザインや性能に関するトレードオフについて解説。

バッテリーのシリコンカーボンバッテリー搭載やAI機能の強化など、Magic V3の未来についての展望。

「Magic V3」開発の道のり--超薄型折りたたみスマホはどうして生まれたか(後編)

 前編に続き、栄耀(Honor)による超薄型の折りたたみスマートフォン「HONOR Magic V3」について、その開発の道のりをお伝えする。

 HONOR Magic V3には、耐久性のほかに、もう1つ物理的に妥協した点がある。カメラバンプが突き出ているので、硬い面に置いたときにおそらく安定しにくいということだ。

 公平を期すためにいっておくと、デザイン上のこの問題を抱えているのはMagic V3だけではない。突き出たカメラバンプは、「Pixel Fold」「OnePlus Open」「Galaxy Z Fold6」「Xiaomi MIX Fold 4」など、折りたたみスマートフォンの多くにも見られる。折りたたみ式に限らず、意欲的なカメラモジュールを搭載した通常のスマートフォンでもよく見られる特徴だ。しかし、そうなると、当然の疑問が生じる。背面にこれほど大きなバンプあるとしたら、ブックスタイルの折りたたみスマートフォンは、現実的にはどのくらいポータブルと言えるのかということだ。

 これはやむを得ないトレードオフであり、すぐには解決しそうにないと指摘するアナリストもいる。

 調査会社Techsponentialのアナリスト、Avi Greengart氏はこう解説している。「メーカー各社はディスプレイ、バッテリー、回路基板のスリム化を図っている。カメラモジュールもスリム化は可能だが、そうすると画質が犠牲になってしまう。消費者は、不格好なカメラバンプを我慢してでも、画質の高さと、折りたたんだときの持ちやすさを優先するだろうと、どのメーカーも踏んでいる」

 Magic V3はそのカメラバンプの中に、背面カメラモジュールの一部として、ペリスコープ式の望遠レンズを搭載し、デジタル100倍ズームに対応している。そのほかに、5000万画素のメインカメラ、4000万画素の超広角、2つの前面カメラという構成で4つのカメラがある。メインカメラのセンサーは1/1.56インチで、これは通常のスマートフォンと比べると小さめだが、折りたたみ式のライバル機種の中では互角といえる。

 まだ自分たちでMagic V3をテストしていない段階なので、カメラモジュールを公正に評価することはできないが、折りたたみスマートフォンのカメラは、同価格帯の非折りたたみ式と比べると、パフォーマンスも画質も一段下がる傾向がある。大型のイメージセンサーやレンズ要素用の物理的なスペースに限界があるからだ。消費者は、「Galaxy S24 Ultra」「Pixel 8 Pro」「iPhone 15 Pro Max」といったフラッグシップモデルに搭載されている最上級のカメラではなく、ディスプレイを折りたためるという特性に対価を払っているのだ。

 Honorも競合他社と同じく、Magic V3では全体的なカメラ性能を高めようとしたという。サムスン、小米科技(シャオミ)、Googleの各社も、最新のブックスタイルモデルではカメラの機能向上を実現している。

 「写真機能に関しては、当社の通常スマートフォンのフラッグシップモデル(「HONOR Magic 6 Pro」のこと)と比べると、まだ改良の余地がある。特に、写真性能全体と、モジュールの厚さに関してはそうだ」。米CNETとの独占インタビューで、HonorのMagic V3担当プロダクトエキスパートのHope Cao氏はこう語った。

バッテリーとAI機能

 折りたたみスマートフォンを薄くすることは、メーカー各社にとって課題であり続ける。バッテリーやプロセッサーなどのコンポーネントを、どんどん薄くなる筐体に収めなければならないからだ。しかし、今まさにそのバッテリー持続時間と計算処理能力こそが、ますます重要になっている。スマートフォンの体験において、人工知能(AI)の占める比重が大きくなっているからだ。

 「AIの時代では、計算処理能力とバッテリー性能を引き上げる必要があるが、そのすべてをより薄く、より軽い筐体で実現しなければならない。従来のバッテリーソリューションでは、こうした進化し続けるニーズに応えることはできないということを理解してほしい」。米CNETがメールで独占入手したメモの中で、Honorはこう説明してくれた。

 Magic V3に搭載されたシリコンカーボンバッテリーは、Honorが誇るポイントの1つであり、その発想の元になったのは、2016年に発表されたTeslaの「Model 3」だという。Magic V3のバッテリーの開発には3年を要したとHonorは話している。

 本体をスリム化したにもかかわらず、Honorは5150mAhのシリコンカーボンバッテリーをMagic V3に搭載することに成功している。これより若干厚かった前モデル「HONOR Magic V2」では5000mAhだった。Honorによると、これを実現できた、少なくともその一部の要因は、平均的な厚みを2.6mmに抑えたまま、バッテリーのエネルギー密度を5.74%向上させたことにあるという。

 Magic V3に搭載されている5510mAhのバッテリーは、グラファイトベースの最新のバッテリーより容量が大きくなっており、その要因の一部はシリコン含有量を10.3%まで高くしたことにある、とHonorは話している。Magic V3には、同社が「E1」と呼ぶチップも採用されており、これによってバッテリー性能と電力管理が向上しているという。

 バッテリーの持続時間については、これもテスト前なので決定的な評価は下せないものの、筆者が以前レビューしたMagic V2で使われていたのは、旧世代のシリコンカーボンバッテリーだった。そのとき実施した米CNETの動画ストリーミングによるバッテリーテストでは、Magic V2の成績はPixel Foldを上回ったが、「Galaxy Z Fold5」には及ばなかった。

 スマートフォンにシリコンカーボンバッテリーを使うのは最近の新しい傾向で、リチウムイオンバッテリーを超えそうな性能のおかげで注目を集めている。環境への影響がより少ない、過熱のリスクが低いというメリットもある。ただし、シリコンカーボンバッテリーの長期的な信頼性については、まだ研究段階だ。

 この点についてHonorは、「シリコンカーボンバッテリーの長期的な実用性については自信がある」と語っている。とりわけ、内部のテスト基準が高く、大量生産への投資に踏み切る前にその基準を満たす必要があるため、なおのこと自信があるという。

Honorの折りたたみスマートフォンの未来

 Magic V3は、Honorのブックスタイル折りたたみスマートフォンシリーズに加わった最新機種であり、前モデルから細かい点が改良されている。今週ベルリンで開かれる国際コンシューマー・エレクトロニクス展「IFA」で、グローバル展開が発表される予定だ。そこでは、ユーザーエクスペリエンスとカメラに組み入れた新しいAI機能に焦点を当てると同社は話している。

 世界の折りたたみスマートフォン市場におけるシェアでいうと、Honorは2024年第2四半期で世界5位に位置し、グローバルシェアは14%と、IDCのWill Wong氏が分析している。技術的には進化しているものの、Honorの前途はまだ多難だとWong氏は言う。

 「Honorは、折りたたみスマートフォン製品に関してハードウェアとソフトの両面で強化を図っており、それは大きな強みであり発展要因だ。同社が次のレベルに上がるには、製品の価値が消費者にもっと浸透するように、ブランド認知度と社会的な話題性をさらに高める必要がある」(同氏)

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。