東大発物流ロボティクスベンチャーRENATUS ROBOTICSが優勝 IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO

AI要約

「IVS2024 KYOTO」と「IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO」が開催され、多数のスタートアップが登壇した。

優勝者や入賞者のプレゼン内容、ビジネスモデルについて紹介されている。

AIを活用するスタートアップが多かったが、将来性やアイデアの重要性が強調されていた。

東大発物流ロボティクスベンチャーRENATUS ROBOTICSが優勝 IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO

国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2024 KYOTO」が、2024年7月4~6日まで京都市で開催。2日目には、アーリーステージのスタートアップがピッチを繰り広げる「IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO」が行われた。

 国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2024 KYOTO」が、2024年7月4日から6日まで京都市伏見区にあるコンベンションセンター「京都パルスプラザ」で開催された。2日目には、アーリーステージのスタートアップが6分間のピッチを繰り広げる「IVS2024 LAUNCHPAD KYOTO」が開催された。本ピッチコンテストは初開催の2007年から18年目を迎え、通算エントリーは5000社以上。過去に登壇した企業の60社がEXIT、35社以上が10億円以上の資金調達をしており、「スタートアップの登竜門」とも言われている。

 

 今年は国内外から300社以上(うち約2割が海外)の応募があり、選ばれた15社が決勝に登壇した。うち3社が海外からで、女性の登壇者は半数に近い7名という構成。会場では審査員による投票結果により1位から5位までが表彰され、優勝者には「スタートアップ京都国際賞」として京都府より1000万円が交付された。ここでは入賞者を中心に登壇したスタートアップを紹介する。

 

第1位(スタートアップ京都国際賞)、オーディエンス賞 RENATUS ROBOTICS株式会社

第2位 株式会社Solafune

第3位 株式会社komham

第4位 emole株式会社

第5位 株式会社Penetrator

 

ピッキングを高速にする自動倉庫システム「RENATUS」

 優勝は大規模で超高密度な自動倉庫システム「RENATUS(レナトス)」を開発する東大発物流ロボティクスベンチャーRENATUS ROBOTICS株式会社がオーディエンス賞とダブルで受賞した。縦横自在に移動する高速シャトルと独自のアルゴリズムを組み合わせた自動倉庫システムは、ラックまですべて自社で開発しており、ロボットによるピッキングを4分から12秒まで短縮でき、すでにアパレル倉庫などで活用されている。さらにピッキングアームの開発による完全無人化を進めることを確定しており、ナスダック上場を目指した米国進出を準備中とのことだ。ステージに走り込んできた勢いそのままのプレゼンで審査員とオーディエンスを圧倒。ユニコーンを超えてデカコーンの可能性も見える高度な技術は、世界でも注目を集めそうだ。

 

Solafune、衛星データを使いやすく世界展開へ

 衛星データを活用するサービスは世界でも増えているが、株式会社Solafuneは”Hack The Planet.”をミッションに、衛星や地理空間データを活用してグローバルな課題解決に取り組む衛星データ解析プラットフォーム「Solafune(ソラフネ)」を展開している。開発者が自由に参加できる公開コンペティションを開催し、解析結果を独自アルゴリズムで自動評価、スコアリングした上で、優秀な解析データに対して賞金を支払う形で買い取り、継続することでよりデータ価値を高めていく。データは衛星データが扱えない国に販売され、世界銀行の支援なども受けながら社会貢献につなげる。100カ国以上で利用されており、全登壇者の中で最もスケールが大きいという点も含めて高く評価されていた。

 

微生物群「コムハム」で生ゴミを分解

 環境問題への取り組みを進めているものの、なかなか上手くいかないものの一つに生ゴミの堆肥化施設がある。札幌市のスタートアップ株式会社komhamは、父が運営する牧場から見つけた微生物群「コムハム」を用いたビジネスを新たに立ち上げ、スマートコンポストの開発と組み合わせた収益モデル化を進めている。コンポストは生ゴミを捨てると自動で処理を行い、2~3日で生ゴミを分解。太陽電池を使って運用の温室効果ガスをゼロにしているため、離島や渋谷の小学校で実証実験が行われている。コムハムを使って焼却施設をバイオ処理にシフトするといったことも可能で、カーボンクレジット効果も期待できる。グローバル展開も見込めるバイオ・ディープテックが拡がるよう個人的にも応援したい。

 

中国で人気ショートドラマの日本発サービス「BUMP」

 4位は1話1~3分のショートドラマを重量課金制で視聴できるサービスとアプリ「BUMP」を展開するemole株式会社が選ばれた。ショートドラマ市場は中国で伸びており、日本でも2026年には1530億円規模になる可能性があるという。1話あたりの発注額はマンガ(WEBTOON)の60万円に対し40~60万円で、小さな予算で大きな収益が生む見込みがあるとしている。アプリはリリースから3年たち、SNS連動で独自のユーザーを獲得している。大手が参入すればあっという間に飲み込まれるようにも思えるが、自主制作の支援や韓国へのグローバル化で収益を伸ばしており、「コンテンツブロバイダーとしてトップを目指す」という力強いメッセージが共感を集めていた。

 

衛星データを活用する不動産探索AI「WHERE」

 JAXA発のスタートアップ株式会社Penetratorは、不動産業に不可欠な土地の仕入れを衛星データでDXするサービス「WHERE(ウェアー)」を提供している。JAXAの研究開発技術と、CEOの阿久津岳生氏が不動産業時代に培ってきたノウハウを教師データにした、高精度な不動産探索AIによる画像解析で空き地や空き家を自動で探し出し、法務局の登記データと連携して所有者を特定。デスクから全国どころか世界の土地を探すことができ、アナログ作業を数クリックで終わらせられる。不動産業界以外からも問い合わせがあり、世界の土地所有者マーケット1027兆円にアプローチする、一次不動産情報のプラットフォーム化を目指す。

 

 今回の登壇者は受賞者以外もディープテック関連が目立つ。衛星データをAIで画像解析するサービスではもう1社、ランディット株式会社は駐車場の空き状態や場所をデジタル化し、利用したい駐車場をリアルタイムで探して、予約から支払いまで一括して行なうパーキングテック「LANDIT」を提供。

 

 米国サンディエゴに本社があるValtecは、衛星ではなくドローンを使ったAI画像解析による魚群探知サービスを開発している。

 

 AIを活用したビジネスでは他にも、画像1枚からデジタルヒューマンを最短30秒で作成できるAI技術「AI VOLT」を開発する株式会社AI VOLT、アパレル向けにAIで服をデザインするテキスタイルCAD「DMKTZ Studio」を開発する台湾のDMKTZがある。

 

 また、ユニークなところでは、AIを活用したスマートデジタル3Dフードプリンタを開発している香港のフードテック系スタートアップのElevatefoodsがあり、アプリでレシピをカスタマイズして介護食やアレルギーレスな食事を提供できるとしている。

 

 AIを文章作成や校正に利用するスタートアップも複数あった。株式会社Remediesは書きたい内容に集中できるパワフルな日本語に特化したAI文章校正サービス「wordrabbit」を提供。リーガルテックの株式会社BoostDraftは、難しくて複雑な法的文書の作成審査を効率アップする法律専門家向け総合文書エディタ「BoostDraft」を開発している。専門家向けでは株式会社Yuimediが医療専門家向けに、医療現場で活用できる研究や臨床に関する医療データを素早く抽出し、ノーコードで扱えるソフトウェア「YuiQuery」を開発しており、特許も出願中だ。

 

 以前はピッチコンテストでよく見かけたデジタルヘルスや環境問題を扱うスタートアップは少なく、バイオ系ではKomhamともう1社、廃棄プラスチックを再生樹脂に循環する「esa(イーサ)」や再生プラスチックペレットの「Repla(リプラ)」を製造する株式会社esaだけであった。フィンテックも1社だけで、家族やカップルで共有する決済口座とアカウントを提供するファミリーテック株式会社の「ファミリーバンク」が選ばれていた。

 

 今回もAIを活用するスタートアップは多かったが、どちらかといえばツールの一つとして脇役のような位置付けであり、何にどう使って新しいものを生み出すかというアイデアや将来性が評価対象になっていたと感じる。IVS代表の島川敏明氏も「AIの活用が当たり前になり、AIと相性の良いサービスを組み合わせて、真の価値を示す時代になってきた」とコメントしている。優勝したRENATUS ROBOTICSやKomhamのような、AIを組み合わせるハードウェアの開発にもチャレンジするスタートアップが登場しており、来年はさらにどのような登壇者が選ばれるのか期待したいところである。

 

文● 野々下裕子 編集●ASCII STARTUP