QRコード決済の統一目指すアジア、「BNPL」拡大の米国--日本にも影響与える世界のキャッシュレス決済

AI要約

アジア諸国では、様々なキャッシュレス決済方法が発展しており、国ごとに異なる特徴が見られる。

中国を中心に、QRコード決済が爆発的に普及しており、他の国でもその普及が進んでいる。さらに、QRコードの統一・相互開放が進み、国際的なQRコード決済ネットワークが期待されている。

米国ではBNPL(Buy Now, Pay Later)の利用が急増しており、その利用が拡大する中で規制強化の動きが見られる。キャッシュレス決済における不正利用対策も各国共通の課題となっている。

QRコード決済の統一目指すアジア、「BNPL」拡大の米国--日本にも影響与える世界のキャッシュレス決済

 第3回は、欧州のキャッシュレス決済市場の特徴をご紹介した。今回は、アジアや米国の市場を見ていこう。

QRコード決済というアジア独自の決済手段の発達

 アジア各国では、キャッシュレス決済の形態が国によって異なり、多様な進展を見せており、日本のキャッシュレス事情に影響を与えている。

 図1では、各国の対面決済のうち、どの決済手段の利用が多いかを表しており、大きく4つのグループに区別ができる。

 まずAグループは、カード決済がよく利用され、クレジットカードが中心である。日本はAに属するが、他の韓国・香港・台湾は日本よりもキャッシュレス比率が高いとされている。特に韓国では、1990年代のアジア通貨危機以降、政府がクレジットカードの利用促進を実施。税控除や公共料金へのインセンティブを導入し、国民にキャッシュレス決済の利用を促し続けた結果、アジアでも有数のキャッシュレス大国となった。

 Bグループは、A同様にカード決済がよく利用されているが、クレカ同等にデビットカードの利用が普及しており、欧米に類似している。オーストラリアは早くからカード決済端末の整備に力を入れ、タッチ決済の利用率は世界トップクラスを誇る。

 Cグループは、ASEAN加盟国を中心に、カード、デジタルウォレットどちらも同等程度利用されている。後述する統一QRコードの動きもあり、デジタルウォレットでの決済が更に普及していく可能性が高いだろう。

 最後のDグループに所属する中国とインドはデジタルウォレット、特にQRコード決済を主軸に爆発的にキャッシュレス化が進んでおり、その動向について後述する。

 このように、欧州と比較すると、アジアはカード決済のみならず、QRコード決済を中心としたデジタルウォレットの利用が普及していると言える。これは各国の金融インフラの整備状況や消費者のニーズ・リテラシーに応じて、決済手段が進化してきたためと考えられる。スマホが普及する前からカード決済端末が十分整備がされていなかった国では、導入のしやすいQRコード決済が普及していった。

QRコード決済のパイオニアとなった中国

 キャッシュレスを語るうえで中国の動向は外せない。中国では「WeChat Pay」「Alipay」の2大スーパーアプリがキャッシュレス決済を牽引している。これらのアプリは単なるQRコード決済手段にとどまらず、ショッピング、交通、公共料金の支払いなど多機能を統合したプラットフォームとして機能しており、ユーザーの生活に深く浸透している。

 当初、Wechat Payはメッセージアプリ、Alipayはalibabaグループのショッピングサイト専用の決済サービスであったが、2010年代あたりからQRコード決済機能を追加。デジタルお年玉のようなユニークなプロモーションなどでユーザー数を、またその導入のしやすさから利用可能な店舗数お店を拡大していき、アジア各国のQRコード決済ブームの火付け役となっていった。

アジア独自のQRコード決済の拡大

 通常、QRコード決済は各サービスによってQRコードが異なるため、複数のサービスが乱立すると、お店は集客を増やすために複数のQRコードを設置しなければならず、それによりレジ操作の複雑になるといった負担につながってしまう。また、ブランドカードとは異なりコード決済は原則自国での利用としているため、越境利用ができない。

 しかし、ここ数年でアジア各国でのQRコードの統一・相互開放が進んでおり、将来的にはより統一されたQRコード決済ネットワークが形成されることが期待されている。日本でもQRコード決済の統一を目指す「JPQR」が2025年度からASEAN各国のQRコードサービスとの相互利用をする方針と発表された。今後は海外観光客が母国のQRコード決済サービスを本QRコード1つで決済が可能になれば、お店の負荷減少につながることが期待できる。

 QRコード決済は、そのチャージ方法により大きく二つに分けられる。1つはシンガポールの「PayNow」のように銀行口座と連携し、チャージせずに口座残高から直接引き落とす「口座直結型」。もう1つは中国や日本で主流の「プリペイド型」だ。前者は決済サービスの推進者が政府や銀行をはじめとした金融機関、後者は非金融機関である場合が多い。

 例えば、インドではFintech企業であるPaytmがプリペイド型の独自決済ネットワークを構築し、2016年の高額紙幣廃止の追い風を受け、国内のQR決済の中心的存在となっていった。2018年に筆者(森本)がインドを訪れた際、露店にも「Paytm」のQRコードが掲示されており、多くの現地住民のスマホにはPaytmアプリがインストールされていた。

 しかしその後、政府主導の統一決済インターフェース(Unified Payments Interface:UPI)という決済ネットワークが誕生。UPIを活用した決済サービスは、口座直結型でチャージの手間が不要、即時決済が可能といった利便性から利用者が急増。現在ではプリペイド型の決済サービスの取扱高はUPIに比べてわずかとなっている。

 アジアでは政府がキャッシュレス化を本格的に推進することで、決済インフラが急速に変化するという特徴が見られる。

米国を中心としたBNPLの隆盛

 最後に、経済大国米国のキャッシュレス事情を見てみたい。キャッシュレス推進協議会によれば、キャッシュレス比率は53.2%と、日本よりも高い水準にある。また決済手段は欧州同様に、クレジットカードだけでなくデビットカードも広く使われている。

 近年、米国では「Buy Now, Pay Later(今買って後で払う)」、通称BNPLの利用が急速に拡大。BNPLはクレジットカードに比べ、支払いの柔軟性が高く、利息や手数料がかからない点が魅力である。

 日本国内でもBNPLが拡大しているが、日本のクレジットカードは原則手数料がかからないものが一般的であるため、利息や手数料がかからない点だけで使われている訳ではない。インフキュリオンの過去調査では、ECサイトでのカード番号の入力など「購入時の決済が面倒」「先払いするのが不安」といった利便性や、心理的な不安を解消するようなニーズも上位に挙がっており、クレジットカードとの利用の棲み分けが行われている。

 BNPLの急成長に伴い、規制強化の動きが活発である。米国の消費者金融保護局は5月、BNPLの急速な普及に対応するため、クレジットカードの消費者保護規則の一部を適用すると発表。日本国内ではまだ規制強化の動きはないが、今後の動向に注目である。

キャッシュレス決済における各国共通の課題

 このように、各国の決済手段やキャッシュレスの普及状況には大きな違いが見られるが、各国共通して取り組んでいる課題は、不正利用への対策である。ニルソンレポートによると、世界のカード決済における不正利用額は年々増加しており、2022年には約334億ドルに達している。対面決済は、カードのICチップ化が普及したことで不正利用は減少傾向にあるが、オンライン決済ではeコマースの拡大に伴い、フィッシングなどの詐欺手口が巧妙化し、不正利用を増え続けている。各国はリアルタイムの不正検知サービスや本人認証の強化を進めているが、今後はより抜本的な対策が求められる。

 次回はこれまでの内容を踏まえ、日本のキャッシュレス化の課題と展望について考察する。

森岡剛

株式会社インフキュリオン コンサルティング マネジャー

大手システムインテグレーター(SIer)を経て2014年より現職。メディア&ラボ研究員として決済動向の国内・グローバル研究を行う。インフキュリオンの「決済動向調査」の主担当として調査設計からデータ分析を担う。社内外の各種メディアへの寄稿や社外講演など情報発信にも取り組む。博士(コンピューターサイエンス、トロント大学)。

森本颯太

株式会社インフキュリオン コンサルティング シニアマネジャー

東京大学工学部物理工学科卒業後、2019年にインフキュリオン コンサルティングに参画。入社前インターンとして現金を使わず各国のキャッシュレス事情を調査するキャッシュレス世界旅行を実施。

入社後は、BtoB決済事業、マーチャント事業の次期戦略、新サービス企画などに従事。資金移動業取得支援やペイロール/金融サービス仲介業によるサービス検討など、法令周りを含めた商品性検討の経験が豊富。