「Ryzen AI 300」は省電力でCPU/GPUはデスクトップ並みという優秀さ。NPU搭載のRyzen AI 9 HX 370を性能検証

AI要約

AMDの「Ryzen AI 300シリーズ」は、AMD最新設計のCPUコアとGPUコアに、Copilot+ PCの要件を満たす新世代NPUを統合したWindowsノートPC向けのSoCだ。

 今回、Ryzen AI 300シリーズの上位モデル「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載するASUSのノートPC「Zenbook S 16」を借用できたので、新設計のRyzen AIが実現するパフォーマンスをデスクトップ向けAPU「Ryzen 7 8700G」との比較を通して確認してみた。

■ CPUはZen 5/Zen 5cのハイブリッド構成を採用

 「Ryzen AI 300シリーズ」は、CPU・GPU・NPUなどを統合したノートPC向けSoC。各プロセッサにはAMD最新のアーキテクチャを採用しており、CPUは「Zen 5」、GPUは「RDNA 3.5」、NPUは「XDNA 2」となっている。

 特に、XNDA 2を採用するNPUは最大50TOPSの処理性能を実現しており、これがMicrosoftが定めるCopilot+ PCの要件(40TOPS以上)を上回っていることが注目されている。

 今回テストするRyzen AI 9 HX 370は、Zen 5コアを4基とZen 5cコアを8基備えた12コア/24スレッドCPUと、16コアのRDNA 3.5世代GPU「Ryzen 890M」、XDNA 2世代のNPUを統合したRyzen AIシリーズの上位モデル。

 そのほかの機能として、USB4 40Gbpsコントローラや16レーンのPCIe 4.0を備えており、TSMC 4nm FinFETプロセスで製造されている。

■ Ryzen AI 9 HX 370を搭載する薄型軽量ノート「Zenbook S 16」

「Ryzen AI 300」は省電力でCPU/GPUはデスクトップ並みという優秀さ。NPU搭載のRyzen AI 9 HX 370を性能検証

 AMDの「Ryzen AI 300シリーズ」は、AMD最新設計のCPUコアとGPUコアに、Copilot+ PCの要件を満たす新世代NPUを統合したWindowsノートPC向けのSoCだ。

 今回、Ryzen AI 300シリーズの上位モデル「Ryzen AI 9 HX 370」を搭載するASUSのノートPC「Zenbook S 16」を借用できたので、新設計のRyzen AIが実現するパフォーマンスをデスクトップ向けAPU「Ryzen 7 8700G」との比較を通して確認してみた。

■ CPUはZen 5/Zen 5cのハイブリッド構成を採用

 「Ryzen AI 300シリーズ」は、CPU・GPU・NPUなどを統合したノートPC向けSoC。各プロセッサにはAMD最新のアーキテクチャを採用しており、CPUは「Zen 5」、GPUは「RDNA 3.5」、NPUは「XDNA 2」となっている。

 特に、XNDA 2を採用するNPUは最大50TOPSの処理性能を実現しており、これがMicrosoftが定めるCopilot+ PCの要件(40TOPS以上)を上回っていることが注目されている。

 今回テストするRyzen AI 9 HX 370は、Zen 5コアを4基とZen 5cコアを8基備えた12コア/24スレッドCPUと、16コアのRDNA 3.5世代GPU「Ryzen 890M」、XDNA 2世代のNPUを統合したRyzen AIシリーズの上位モデル。

 そのほかの機能として、USB4 40Gbpsコントローラや16レーンのPCIe 4.0を備えており、TSMC 4nm FinFETプロセスで製造されている。

■ Ryzen AI 9 HX 370を搭載する薄型軽量ノート「Zenbook S 16」

 Ryzen AI 9 HX 370のテスト用として借用したASUSの「Zenbook S 16」は、16型の大画面を採用していながらも、本体の厚みを最薄部で約11.9mm、重量約1.5kgに抑えた薄型軽量ノートPCだ。

 詳しい機能や外観については後程紹介するとして、12コア/24スレッドCPUを擁するRyzen AI 9 HX 370を搭載した16型ノートPCというスペックからすると、驚くほど薄く軽いノートPCに仕上がっている点が印象的だ。

 SoC以外の仕様については、32GBのLPDDR5x-7500メモリ、1TBのPCIe 4.0 SSDを搭載しており、OSにはWindows 11 Homeの24H2が導入されていた。Ryzen AI 9 HX 370の搭載によりCopilot+ PCの要件を満たしているZenbook S 16は、キーボードにCopilotキーを搭載している。

■ テスト条件と比較用APU

 今回のテストでは、Zenbook S 16を使ってRyzen AI 9 HX 370のパフォーマンスを計測することを目的としている。

 このため、Zenbook S 16のファン動作モードは最大性能が発揮できる「フルスピードモード」に設定する。このモードではファンスピードが高速化するだけでなく、Ryzen AI 9 HX 370の温度リミットと電力リミットが緩和され、より高いパフォーマンスを発揮できるようになる。

 Ryzen AI 9 HX 370の比較対象には、Zen 4世代のCPUとRDNA 3世代のGPUを統合したデスクトップ向けAPU「Ryzen 7 8700G」を用意した。1世代前の設計を採用するAPUとはいえ、大電力の消費が許されたデスクトップ向けAPUに対して、Ryzen AI 9 HX 370がどれだけの性能を見せられるのかに注目だ。

 そのほかの検証環境については以下の通り。テストはいずれも室温約26℃の環境下で実施している。

■ ベンチマーク結果

 今回実施したベンチマークテストは以下の通り。

・Cinebench 2024

・Cinebench R23

・3DMark

・やねうら王

・Adobe Camera Raw

・Davinci Resolve

・HandBrake

・TMPGEnc Video Mastering Works 7

・SiSoftware Sandra

・PCMark 10

・ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

・モンスターハンターライズ : サンブレイク

・エルデンリング

・フォートナイト

・STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール

 なお、Ryzen AI 9 HX 370とRyzen 7 8700GはともにNPUを搭載しているが、適当な比較を行なうことができなかったため、今回の検証はCPU性能とGPU性能を比較するものとなっている。

□Cinebench 2024

 CPUとGPUの3DCGレンダリング性能を計測する「Cinebench 2024」では、GPUテストが今回のテストするGPUコアに対応していなかったため、CPU性能を計測する「CPU (Multi Core)」と「CPU (Single Core)」のみ実行した。

 CPUのマルチスレッド性能を計測する「CPU (Multi Core)」では、967を記録したRyzen AI 9 HX 370が、1,015を記録したRyzen 7 8700Gを約5%下回った。最新設計かつCPUコア数で上回るとはいえ、電力リミット33WのRyzen AI 9 HX 370が、87.8WのRyzen 7 8700Gをマルチスレッド性能で上回るのはさすがに厳しいようだ。

 シングルスレッド性能を計測する「CPU (Single Core)」では、114を記録したRyzen AI 9 HX 370が、108を記録したRyzen 7 8700Gを約6%上回った。ここでは、最大5.1GHzで動作するZen 5コアを備えるRyzen AI 9 HX 370の強みが発揮された恰好だ。

□Cinebench R23

 Cinebench 2024の1つ前のバージョンであるCinebench R23で、CPUベンチマークを実行した結果が以下のグラフ。

 「CPU (Multi Core)」ではRyzen AI 9 HX 370がRyzen 7 8700Gを約3%下回った一方、「CPU (Single Core)」では逆にRyzen 7 8700Gを約9%上回った。

□3DMark

 CPUの稼働スレッド数ごとの性能を計測する3DMarkの「CPU Profile」を実行した結果が以下のグラフ。

 4スレッド以上が稼働する条件ではRyzen 7 8700Gを3~17%下回っているが、2スレッド以下になるとRyzen AI 9 HX 370が逆に7~11%上回った。

□やねうら王

 将棋ソフトの「やねうら王」では、ベンチマーク機能を利用してマルチスレッドテストとシングルスレッドテストを実行した。なお、Ryzen AI 9 HX 370で実行すると、そのままではシングルスレッドテストがZen 5cコアに割り当てられてしまい速度がでないため、シングルスレッドテストについてはZen 5コアに処理が割り当てられるよう調整している。

 マルチスレッドテストでは、Ryzen AI 9 HX 370がRyzen 7 8700Gを約9%下回ったが、シングルスレッドテストではほぼ同等のスコアを記録している。

□Adobe Camera Raw「RAW現像」

 Adobe Camera Rawで、デジタルカメラで撮影した2,400万画素のRAWファイル100枚をJPEGファイルに変換する「RAW現像」に掛かった時間を比較した。

 CPUとGPU両方を活用するこの処理では、57秒で処理を完了したRyzen AI 9 HX 370が、1分01秒を要したRyzen 7 8700Gを約6%上回る処理速度を発揮した。

□Adobe Camera Raw「AIノイズ除去」

 Adobe Camera Rawで、デジタルカメラで撮影した2,400万画素のRAWファイル5枚に対して、AIノイズ除去を実行したさいの処理時間を比較した。

 処理のほとんどをGPUで実行するAIノイズ除去では、3分10秒で処理を完了したRyzen AI 9 HX 370が、3分38秒を要したRyzen 7 8700Gを約15%上回る処理速度を発揮した。

□Davinci Resolve 18

 Davinci Resolve 18では、デジタルカメラで撮影した2160p60(4K60p)動画に字幕を追加したものを、YouTube向けプリセットでレンダリングした際の処理時間を比較した。

 CPUとGPUのほか、ビデオエンジンを活用するこの処理では、1080p60と2160p60の両方を約3分で完了したRyzen AI 9 HX 370が、どちらも3分30秒弱を要したRyzen 7 8700Gを約13~16%上回る速度を発揮している。

□HandBrake

 HandBrakeでは、約1分の4K動画(2160p60)を「Creatorプリセット」でエンコードしたさいの処理時間を比較した。

 CPUのみを使用してエンコードを行なうこのテストにおいて、Ryzen AI 9 HX 370のエンコード速度はRyzen 7 8700Gを約10~13%下回った。Cinebenchでもそうであったように、CPUコアをフル活用する条件では電力リミットの差がかなり効いているようだ。

□TMPGEnc Video Mastering Works 7

 TMPGEnc Video Mastering Works 7では、約1分の4K動画(2160p60)をCPUエンコーダである「x264」と「x265」でエンコードしたさいの処理時間を比較した。

 CPUコアをフルに使って動画エンコードを実行するこのテストにおいて、Ryzen AI 9 HX 370の処理速度はx264で約15%、x265で約6%、それぞれRyzen 7 8700Gを下回った。

□SiSoftware Sandra

 SiSoftware Sandraでは、CPU性能を計測する「Processor Arithmetic」と「Processor Multi-Media」を実行した。なお、メモリ系のテストはRyzen AI 9 HX 370で実行することができなかったため、今回は省略する。

 Processor ArithmeticでのRyzen AI 9 HX 370は、Ryzen 7 8700Gをわずかに上回ったSingle-Floatを除き、Ryzen 7 8700Gを3~8%下回った。

 一方、Processor Multi-Mediaでは4倍精度演算(Quad-Int、Quad-float)こそRyzen 7 8700Gを2~8%下回っているものの、それ以外の条件では逆に2~23%上回った。

□PCMark 10

 PCMark 10では、もっともテスト数が多い「PCMark 10 Extended」を実行した。

 総合スコアで7,360を記録したRyzen AI 9 HX 370が、7,158のRyzen 7 8700Gを約3%上回った。サブスコアについても、EssentialsでRyzen 7 8700Gを約3%下回っているものの、ほかの項目では1~11%上回っており、特にGPU性能が重要なGamingでは最大のスコア差をつけてRyzen 7 8700Gを上回った。

□3DMark「Speed Way」

 3DMarkのDirectX 12 Ultimateテスト「Speed Way」の結果をまとめたものが以下のグラフ。

 Ryzen AI 9 HX 370のスコアは「545」で、「408」のRyzen 7 8700Gを約34%上回った。

□3DMark「Steel Nomad」

 3DMarkの新しいDirectX 12テスト「Steel Nomad」と、その軽量版「Steel Nomad Light」の結果をまとめたものが以下のグラフ。

 高負荷テストのSteel Nomad無印においてRyzen AI 9 HX 370が記録したスコアは「569」で、「448」のRyzen 7 8700Gを約27%上回った。軽量版のSteel Nomad Lightでも、「3,263」を記録したRyzen AI 9 HX 370が、「2,557」のRyzen 7 8700Gを約28%上回っている。

□3DMark「Port Royal」

 3DMarkのDirectX Raytracing(DXR)テスト「Port Royal」の結果をまとめたものが以下のグラフ。

 Ryzen AI 9 HX 370のスコアは「1,758」で、「1,521」のRyzen 7 8700Gを約16%上回った。

□3DMark「Solar Bay」

 3DMarkのVulkan 1.1を用いる軽量なリアルタイムレイトレーシングテスト「Solar Bay」の結果が以下のグラフ。

 Ryzen AI 9 HX 370のスコアは「14,196」で、「10,225」のRyzen 7 8700Gを約39%上回った。

□3DMark「Wild Life」

 3DMarkのVulkanテスト「Wild Life」と、高負荷版である「Wild Life Extreme」の結果をまとめたものが以下のグラフ。

 軽量なWild Life無印で記録したRyzen AI 9 HX 370のスコアは「20,489」で、「15,671」のRyzen 7 8700Gを約31%上回った。高負荷版のWild Life Extremeでも、「6,394」を記録したRyzen AI 9 HX 370が、「4,988」のRyzen 7 8700Gを約28%上回っている。

□ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク

 ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、フルHD/1080p解像度で描画品質を「最高品質」と「標準品質(デスクトップPC)」に設定したさいのスコアを取得した。なお、DLSSやFSRは無効にしている。

 Ryzen AI 9 HX 370は「標準品質(デスクトップPC)」で約5%、「最高品質」で約20%、それぞれRyzen 7 8700Gを上回った。特にGPU負荷が高くなる「最高品質」で差を広げている様子から、GPUコア性能の差が表れた結果であると言えよう。

□モンスターハンターライズ : サンブレイク

 モンスターハンターライズ : サンブレイクでは、フルHD/1080p解像度で3種類のグラフィックプリセットをテストし、平均フレームレートを計測した。

 Ryzen AI 9 HX 370は描画設定「低」で197.6fps、「中」で114.8fps、「高」で45.6fpsを記録しており、Ryzen 7 8700Gを25~43%の大差で上回った。

 ゲーミング性能に関しては、現時点のデスクトップ向けAPUで最強のiGPUを備えるRyzen 7 8700Gより上位であることが分かる結果であり、最高画質にこだわらなければ、フルHD/1080p解像度でモンスターハンターライズ : サンブレイクを十分にプレイできるパフォーマンスが得られている。

□エルデンリング

 エルデンリングでは、フルHD/1080p解像度で4種類のグラフィックプリセットをテストし、平均フレームレートを計測した。なお、自動描画調整機能とレイトレーシングについては無効にしている。

 Ryzen AI 9 HX 370は描画設定「低」で40.1fps、「中」で35.7fps、「高」で32.3fps、「最高」で28.9fpsを記録しており、Ryzen 7 8700Gを10~25%上回った。残念ながら60fpsには届いていないが、30fpsは超えているのでプレイできないこともないといったパフォーマンスだ。

□フォートナイト

 フォートナイトでは、フルHD/1080p解像度で4種類のグラフィックプリセットをテストし、平均フレームレートを計測した。テスト時のグラフィックスAPIは「DirectX 12」。

 Ryzen AI 9 HX 370は描画設定「低」で97.8fps、「中」で74.7fps、「高」で49.1fps、「最高」で33.6fpsを記録しており、Ryzen 7 8700Gを2~26%上回った。

□STREET FIGHTER 6 ベンチマークツール

 STREET FIGHTER 6 ベンチマークツールでは、フルHD/1080p解像度で3種類のグラフィックプリセットをテストし、メインコンテンツであるFIGHTING GROUNDの平均フレームレートを比較した。上限フレームレートは60fps。

 Ryzen AI 9 HX 370とRyzen 7 8700Gは、描画設定「LOWEST」および「LOW」においてともに上限フレームレートを維持する性能を発揮している。描画設定を「NORMAL」に引き上げると、51.49fpsを記録したRyzen AI 9 HX 370が、39.78fpsのRyzen 7 8700Gを約29%上回った。

■ Ryzen 7 8700Gを圧倒する優れた電力効率を実現

 CPUのマルチスレッド性能でもRyzen 7 8700Gにかなり近いパフォーマンスを発揮し、シングルスレッド性能やGPU性能の優秀さが確認できたところで、Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」と「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」実行中のモニタリングデータを確認してみよう。

□Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」実行中

 Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」実行中のモニタリングデータをCPUごとにまとめたものが以下のグラフ。

 ベンチマークスコアについては、「967」を記録したRyzen AI 9 HX 370が、「1,015」のRyzen 7 8700Gを約5%下回っていたのだが、これらのスコアを記録するのに必要だった平均消費電力はRyzen AI 9 HX 370が「33.0W」で、「87.7W」だったRyzen 7 8700Gの半分以下という、圧倒的な省電力性と電力効率を発揮していたことが分かる。

□ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク実行中

 フルHD/1080pかつ「最高品質」設定で実行した「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク」のモニタリングデータが以下のグラフ。

 平均CPU消費電力はRyzen AI 9 HX 370が「32.5W」、Ryzen 7 8700Gが「69.5W」で、Ryzen AI 9 HX 370はRyzen 7 8700Gの半分以下の平均消費電力で動作していたことが分かる。なお、このグラフで言うCPU消費電力はGPUを含むSoC全体の消費電力だ。

 この条件でのスコアはRyzen AI 9 HX 370が「4,439」、Ryzen 7 8700Gが「3,714」だったので、Ryzen 7 8700Gを約20%上回るスコアを記録しながらも、消費した電力は半分以下ということになる。あくまでソフトウェア読みの消費電力を比較したもので実消費電力を比較したわけではないが、ノートPC向けにチューニングされたRyzen AI 9 HX 370の省電力性や電力効率が優れていることは間違いないだろう。

■ パワフルな薄型軽量・大画面ノート「Zenbook S 16」

 最後に、あらためて今回のテストに用いたRyzen AI 9 HX 370搭載ノート「Zenbook S 16」について紹介しよう。

 Zenbook S 16は、16型有機EL(OLED)ディスプレイを備える大画面ノートPCにして、Copilot+ PCの要件を満たすAI PC。本体サイズは幅353.6mm×243.0mm×高さ11.9~12.9mmとフットプリントはB4用紙よりやや小さい程度で、本体重量は約1.5kg。本体カラーはスカンジナビアンホワイトとスマイアグレーの2種類で、今回借用したのはスカンジナビアンホワイトモデルだ。

 電力効率に優れたRyzen AI 9 HX 370と独自の薄型サーマルソリューションの採用により、16型ディスプレイを搭載するノートPCでありながらコンパクトかつ薄型軽量を実現。100%リサイクル可能で手触りも良いASUSの独自素材「セラルミナム」を天板に採用しており、耐久性規格のMIL-STD-810Hに準拠したテストをクリアできる堅牢性も備えている。

 ディスプレイの16型有機ELパネルはアスペクト比が16:10で、画面解像度が2,880×1,800ドット、リフレッシュレートは120Hz。パネル表面は光沢感のあるグレア仕様となっており、動画や画像を鮮やかに表示できる。

 ディスプレイ部分における表示部の占有率が約90%になるほどの狭額縁仕様となっており、これが16型の大画面を実現しながらもB4用紙に収まるフットプリントを実現した要因の1つだ。なお、画面表示部分の上部には、Windows Helloの顔認証に利用できる赤外線対応カメラを搭載している。

 今回借用したのは英語キーボードを搭載するグローバル版だ。日本向けには日本語キーボード搭載モデルの発売も予定されている。グローバル版の英語キーボードはテンキーレス仕様で、各キーにはバックライトを搭載。16型ノートのゆとりあるスペースを生かして、主要キーのキーピッチは約1.9mmが確保されている。

 タッチパッドも150×100mmというかなり大型のものを搭載しており、マルチタッチに対応しているほか、上部と左右には明るさや音量調節、動画の早送り・巻き戻しといった機能が割り当てられている。

 本体の左右には外部接続用のインターフェイスが配置されている。左側面にはHDMIポート、USB4ポート(2基)、ヘッドセットジャック。右側面にはSDXCカードスロットとUSB 3.2 Gen 2(Type-A)を搭載。有線LANは非搭載で、無線機能はWi-Fi 7/Bluetooth 5.4に対応している。

 左側面に2基搭載しているUSB4ポートは、最大40GbpsでのUSB4接続に対応。今後普及が期待されるUSB4外付けSSDを接続すれば、最大で3.8GB/s前後の速度を発揮することが可能。

 本体にはリチウムポリマーバッテリ(4セル/78Wh)を内蔵しており、これによってJEITA 3.0基準で動画再生時で約10.7時間、アイドル時に約15.0時間のバッテリ駆動を実現。付属のACアダプタは65W(20V/3.25A)対応のUSB PDアダプタで、本体のUSB4ポートに接続することで約2時間で充電を完了できる。

 16型の大画面を備えながらも携帯性に優れた薄型軽量を実現、くわえてRyzen AI 9 HX 370から高い性能を引き出せる実力まで備えているZenbook S 16は、あらゆる用途で使える個人向けノートPCとしてかなり完成度の高い製品であると言えよう。

■ 進化したCPUとGPUのパフォーマンスが魅力のRyzen AI 300

 Ryzen AI 9 HX 370は、省電力向けにチューニングされたノートPC向け製品でありながら、デスクトップ向けAPUであるRyzen 7 8700Gに匹敵するCPU性能と、勝るとも劣らぬGPU性能を発揮し、電力効率では圧倒して見せた。Ryzen AI 300は、新世代のノートPC向けSoCとして理想的な進化を遂げているようだ。

 一方で、今回性能を検証できなかったのがNPUだ。いまのところNPUを活用できる場面はかなり限定的なのだが、今回のテストでも試しているAdobe Camera Rawの「AIノイズ除去」などにNPUを活用して処理が高速化できるようになれば、その存在感は大きく増すことになる。

 NPUに関しては今後の対応アプリ次第といったところではあるが、CPUとGPUの進化だけでもRyzen AI 300は十分に魅力的なSoCであり、搭載ノートPCを選択する積極的な理由となり得る。将来のNPUの利用シーン拡大に期待はしつつも、いまはまだCPUとGPUの性能にこそ注目すべきだろう。