来るべき6G時代、ノキアが考える「キャリアが5G SAで稼ぐ方法」

AI要約

ノキアソリューションズ&ネットワークが、5G/5G Advance/6Gに向けた取り組みやAIの活用などを紹介。

6G時代に向けた技術進化やネットワークの発展について、取り組みと展望を説明。

ネットワークAPIを活用して新たなエコシステムを構築する取り組みやその展望について紹介。

来るべき6G時代、ノキアが考える「キャリアが5G SAで稼ぐ方法」

 携帯電話基地局の機器やITソリューションを手がけるノキア(NOKIA)ソリューションズ&ネットワークは11日、記者向けの説明会を実施した。3月にスペインで開催されたモバイル関連の総合展示会「MWC2024」で紹介された最新製品や、5G/5G Advance/6Gに向けての同社の取り組みや考えなどが紹介された。

■ 業界をリードするノキア

 ノキアソリューションズ&ネットワークス 代表執行役員社長の加茂下哲夫氏は、ノキアの2023年度売上高が223億ユーロ(約3兆8000万円)、営業利益率は7.6%と紹介。事業別に見ると、無線ネットワークに関するモバイル事業が98億ユーロ(約1兆7000億円)、IP製品に関するネットワークインフラ事業が80億ユーロ(約1兆4000億円)、コアビジネス関連のクラウド&ネットワーク事業が32億ユーロ(約5000億円)の前年度売上を記録している。

 いずれの事業も、業界をリードする立場にあるといい、加茂下氏は「エンドツーエンドでソリューションを提供しているのは、中国以外ではノキアが唯一の会社」とコメントする。

■ 6Gの技術進化に求められる要件

 技術戦略本部長 ストラテジー&テクノロジーの高岡春生氏からは、「2030年時点のデータトラフィックは、現在と比較して4倍以上、1デバイスあたりの月間使用量は50GBを超えるだろうと予想されている」と指摘。また、デバイスエコシステムの拡大で、スマートフォンにAIや最新機能が導入されたり、IoTデバイスや法人が利用する特殊なデバイスなどが登場したりすることが予想され、新たな技術を採用するごとに、ネットワークに与える影響も大きくなってくると説明する。

 これらの課題に対し、6Gで対応するためには、AI主導の価値をどうやって生み出すかというアプローチが必要になってくると高岡氏は話す。たとえば、APIやセンシング技術を使った新たな収益モデルを生み出すことや、無駄のない環境に優しい設計やシンプルな構成、自動化を伴い、高いパフォーマンスとコスト効率の両面に対応することの両面に対応することが求められると考えているといい、これらの対応には「6Gでなければ対応できない世の中になってくる」と自身の見解を述べる。

 あわせて、環境に優しいサステナブル性能やセキュリティ性能、誰もが手頃な価格でネットワークにアクセスできるアクセシビリティ/アフォーダビリティ性能も重要な要素になってくると次世代ネットワーク「6G」に求められる要件を紹介する。

■ 6G時代のビジョンとユースケース

 高岡氏は、これまでの2G~5Gにかけて、ネットワークの役割が世代によって変わってきているとし、5Gでは、センサーなどのデータのやりとりを活性化しようとしていると解説。6G時代では、人間の世界とデジタルの世界、物理的な世界が相互に融合しあい、中央のネットワークがうまく結びつけるようになるのではないかと説明。デジタルツインのようなアプリケーションが続々と誕生し、革新的、飛躍的に伸びていくといった世界が考えられるという。

 一方、6Gの世界に至るまでには、5Gや5G Advanceをベースに段階的に成長していくものだとし、現段階では、5G/5G Advanceのネットワークをさらに効率的かつ経済的、持続可能的に拡張していくことが重要だと説明。コアネットワークやAIネイティブ/高い電力効率のフレームワークの取り組み、非地上系ネットワーク(NTN)により世界どこでもつながるような世界などが、「6Gの初期段階で実現できる技術」との私見を示した。

 5Gと6Gの違いについて、高岡氏はよりシンプルなアーキテクチャーになると語る。たとえば、5GではNSAとSAなど7つのアーキテクチャーが定義されたが6Gでは、単一のアーキテクチャーのみになったり、6G端末では6Gの無線のみが利用できたり、シンプルかつスムーズな進化ができるようにしていくという。このほか、ネイティブAIやエネルギー効率を高める取り組み、NTNの実現など要件を満たした6Gに向けて、業界団体で6G基盤の構築が進められている。

 一方、6Gで利用できる周波数帯について、全世界で使える周波数が確保しづらいのが現状だとする。たとえば、日本では6GHz帯がうまく利用できればとする一方、Wi-Fiとの干渉問題があるなど、各国ですでに利用されている通信との共存が問題になってくるだろうと示唆する。

 同社では、業界団体や官民パートナーシップへの積極的な参加を勧めており、6G実現まで世界をリードする立場にあるとアピール。今後もさまざまな研究機関とともに、次世代の通信環境開発を推進していくとした。

■ 5Gの収益源を発掘し投資に回すサイクルを

 ノキア 製品管理部門責任者 RAN 製品ラインマネジメントのブライアン・チョー(Brian Cho)氏は、4Gから5Gへの進化について「5Gは求められた役割を果たしている」と順当に進化を遂げたとコメント。Massive-MIMOやビームフォーミング技術などの進化も含め、ブライアン氏は5Gの技術自体を「100点満点中90点」と評価し、技術的には成功しているとした。

 一方、同社の製品では、世界的に見ても高いパフォーマンス性能が維持できているとし、第三者機関「Opensignal」の米国と欧州の調査でも、同社製品は、最高のダウンロードとアップロードを記録しているとアピールする。引き続き同社では、業界をリードする新世代のベースバンドを開発しており、高い性能と省電力性能を両立した製品が登場している。

 また、小型かつ高性能のMassive-MIMOユニットも開発されており、やや離れた周波数帯を利用する日本の通信事業者でも1台で両方を利用できかつ消費電力量を抑えるユニットを開発しているとする。

 同社では、通信事業者が5Gネットワークへの投資を収益化できるような装置の開発を進めているという。たとえば、4Gネットワークの混雑が5Gユーザーの満足度低下につながらないようオフロードする技術や5Gの高密度化、スタンドアローン(SA)、Voice over NR、ネットワークスライシングなどの取り組みができるよう同社も投資しているとコメント。

 なかでも、米国の通信事業者「T-Mobile」は、高品質な5Gネットワークの構築や5G SAの展開、ネットワークスライシングの実施などが進んでおり、米国のT-Mobileをブライアン氏は「5G時代で最も成功した通信事業者とみられている」とし、収益化モデルに近い事業者だとした。特に、ネットワークスライシングは、T-Mobileが追加の利益を生み出すための基本的なツールになるとし、これにより再びネットワークに投資する余地が生まれ、より高品質なネットワークを構築するサイクルが続くだろうとした。

 一方、インドでは、6つのネットワークスライシングを活用した取り組みが進められているといい、5Gモバイル通信やセキュリティ、クラウドゲーム、ヘルスケアや教育関係といった用途に応じてスライスを分けることで、ユーザーの利便性や公共の安全などを守った最高のサービスが提供できる環境にあるとした。

■ AIとLLMがRANにもたらす力

 また、同社ではAIを5G Advancedや6Gの進化の重要な柱の一つととらえているといい、AIと大規模言語モデル(LLM)をあらゆる部分で使用しているという。たとえば、同社従業員はAIと同社独自のLLMを構築し、機密情報を守りながら製品やソリューションを日々学んで賢くなっていくAIソリューションを開発している。

 たとえば、同社のサービスチームがある基地局でアラームが発報されている場合、まずドキュメントを探し、何のアラームなのか、どうすれば復旧するのかを確認する。AIを使えば、直接アラームからどうすべきかを教えてくれる。これにより、迅速なサービス復旧がなされるようになる。

 また、ハードウェアの交換などが必要になった場合、作業現場の危険な箇所や安全に作業するためのアドバイスを受けられ、作業安全性の向上が期待できるようになる。

 これらのAIを活用したRANシステムの構築を進める団体「AI-RANアライアンス」では、無線スペクトル効率を向上させ、人間よりもうまく周波数帯域の利用効率上昇や、分散コンピューティングなどをRANでサポートする技術や、AIとRANが同じインフラを共有し、より高い収益化を目指す取り組みなど、「AI for RAN」と「AI on RAN」、「AI and RAN」の3つの重点領域を定めて活動を進めている。

■ ネットワークAPIを使ったマネタイズ

 同社の最新ソリューションの一つとして、「Network as Code」(ネットワーク アズ コード、NW as Code)の取り組みが紹介された。ネットワークスライシングなど、ネットワークが進化するなかで、ネットワークを使ったサービスを迅速に展開できるAPIの活用について、より強力に進めるべくより簡単に導入できるソリューション「NW as doce」の開発が進められている。

 ネットワークAPIを利用したサービスのユースケースとして、IDや、デバイスパフォーマンスを利用するものなどが想定されており、日本においても大きな市場になることが期待されている。

 一方で、なかなか普及していない現状があるが、何が原因となっているのか? ノキアソリューションズ&ネットワークス ソリューションコンサルタントの中尾泰幸氏は、開発者視点で分析すると、「APIを利用しようとしても開発ツールの使い勝手が悪い」「アプリを開発しても、テストする場が十分ではない」「日本ではAPIプログラムのIT能力、リテラシーが低いので使おうとそもそも思わない」が普及しない原因として挙げる。加えて、APIを公開しても積極的な利用のアピールができていなかったり、単一のAPIだけではユースケースが限られていたり、そもそもサービスとして魅力が感じられなかったりするといい、せっかくの技術がうまくアピールできていない点も指摘する。

 同社では、これらの解決策の1つとして、ネットワークAPIを抽象化することで、新しいサービス開発を促すソリューションを開発している。

 Network as Codeでは、開発者向けポータルに開発環境やSDK、ドキュメント、チュートリアル、APIカタログなどを用意する。また、テスト環境としてのサンドボックスも提供する。

 提供されるAPIは、開発者向けに抽象化することで、直感的にネットワークに接続したサービスが開発できるようになる。これまでは、テレコム分野の言語が理解できないとAPI利用が難しかったといい、ハードルが高かったが、Network as CodeではシンプルなコードだけでAPIを呼び出せるため、3GPPの知識がなくてもAPIが利用できるようになるという。

 これにより通信事業者は、5G接続サービス以外にもAPIの利用による新たなエコシステムで収益化できるようになるとしている。たとえば、ポータルを運営することでネットワークAPIを収益化するエコシステムを構築したり、ノキアがポータルを運営する際は、APIの利用に関わる利益を通信事業者にも分配される仕組みなどが想定できるという。

 Network as Codeでは、標準化された3GPPを公開する「NEF」や、NEFなどのAPIに対して簡略化されたAPIを定義するオープンソースプロジェクト「CAMARA」など同様に抽象化されたAPIも実装できる包括的なソリューションとして開発される。たとえば、匿名化された加入者IDや端末位置、端末ステータス情報の取得やエッジクラウドの利用や管理などのAPIがCAMARAで抽象化されて登場している。

 すでにフランスではNetwork as Codeのハッカソンイベントが開催されており、実際の商用ネットワークを使った競技が行われており、アプリを開発しやすいエコシステムとして、ノキアも普及に努めるという。通信事業者としても、新しい収益源の発掘となり、ネットワークスライシングの商用利用を促すものになるとした。