全会議で資料を廃止しSalesforce CRMに統一、三菱地所リアルの定着化施策の数々

AI要約

セールスフォース・ジャパンは、2024年6月7日、“Salesforce全国活用チャンピオン大会”である「SFUG CUP 2024」を開催。本記事では、ファイナリスト6社の中から優勝に選ばれた、三菱地所リアルエステートサービスの打田大輔氏のプレゼンをお届けする。

営業が入力してくれない! 運用・プロセス面、体制・人材面、技術面に立ちはだかる「3つの壁」

セールスフォースの定着化に伴い過去最高益を達成

全会議で資料を廃止しSalesforce CRMに統一、三菱地所リアルの定着化施策の数々

セールスフォース・ジャパンは、2024年6月7日、“Salesforce全国活用チャンピオン大会”である「SFUG CUP 2024」を開催。本記事では、ファイナリスト6社の中から優勝に選ばれた、三菱地所リアルエステートサービスの打田大輔氏のプレゼンをお届けする。

 セールスフォース・ジャパンは、2024年6月7日、“Salesforce全国活用チャンピオン大会”である「SFUG CUP 2024」を開催した。

 

 今回で12回目となる同大会は、セールスフォース製品を活用してビジネスを成功へと導く、実践的なノウハウやナレッジを共有するイベントだ。今回から、SlackやTableauも含めたすべてのセールスフォース製品が応募対象となり、AI活用の前提となる「データの収集と利用における課題の克服」をテーマに、全国から活用事例が集まった。

 

 本記事では、ファイナリスト6社の中から優勝に選ばれた、三菱地所リアルエステートサービスの打田大輔氏のプレゼンをお届けする。

 

営業が入力してくれない! 運用・プロセス面、体制・人材面、技術面に立ちはだかる「3つの壁」

 1972年設立の三菱地所リアルエステートサービスは、三菱地所グループの1社として不動産サービス事業を担っており、主に不動産の売買仲介、オフィス移転の仲介、ビル・住宅の運営管理、不動産鑑定などの事業を展開する。

 

 同社が利用するセールスフォース製品は、CRM・SFAツールの「Sales Cloud」、MAツールの「Account Engagement」およびBIツール「Tableau」だ。Sales Cloudには、顧客の名刺から取引先、商談、不動産などすべての情報が集約され、経営戦略の立案から予実管理、会議運営、物件マッチング、申請・承認、人材育成など「情報システムの域を超えた基幹システム」(打田氏)として同社のビジネスを支える。

 

 大会のテーマである「データ収集と利用」において、同社が目指しているのが「CRMの商談・活動の入力率が80%以上」という目標値であり、データに基づく意思決定ができる基盤にすることだ。当時の入力率は60%にとどまり、データの質量ともに不十分だった。

 

 CRMへの入力率が低い背景には、運用・プロセス面、体制・人材面、技術面それぞれの課題があった。

 

 運用・プロセス面の課題は「CRMにデータ入力することの価値について、営業が腹落ちしていない(納得できていない)」こと。体制・人材面の課題は「ITリテラシーが低く、システムの使い方が分からない」こと。そして技術面の課題は「収集したデータをどう活かせるのかを営業に示せていない」ことだった。

 

 これらの課題に対して、打田氏は数々の施策を展開していった。「特に難しいことはしていないので是非参考にして欲しい」(打田氏)。

 

運用・プロセス面の施策:すべての会議で会議資料を廃止、情報はセールスフォース製品に統一

 まずは運用・プロセス面での、営業にCRM入力を腹落ちさせるための施策だ。展開したのは“アメとムチ”を交えた4つの施策である。

 

 ひとつ目が、会議資料をデジタル化したことだ。

 

 まずは、無駄な会議資料を作ることを廃止した。これにより、営業はSales CloudとExcelの帳簿に、二重で入力せずにすむようになった。

 

 また、経営会議から幹部会、部会、課会と分かれるすべての会議で、参照する情報をSales CloudとTableauに限定した。これにより、営業が商談や活動の内容をSales Cloudに入力するだけで、各会議に必要な情報が揃う。「おのずと、Salesforceにデータが入っていないと会議ができない仕組みになった」と打田氏。

 

 2つ目は、社長による“圧倒的な”コミットだ。「CRM・SFAは営業プロセスの背骨」「予算未達なのだからやり方を変えるしかない」「入手した情報を入れるのは当たり前でそんなレベルの低い話はしていない」。これらは、実際に社長から発信されたメッセージだ。トップ自ら、積極的に「変革」を呼び掛けたわけだ。

 

 3つ目は、未入力者の可視化や月次配信だ。入力率を上げるために、入力状況を全社にフルオープンで公開。更には、月次でこの情報を配信した。

 

 4つ目は「CRM憲章」の作成と人事考課への反映だ。CRMの目的、事業間の協業や情報共有におけるルールを会社として制定し、取得した情報は速やかに入力することなどを義務付けた。さらに、人事考課においてもCRMの利用を反映し、昇格の条件となっている行動評価の項目に「CRMの利活用」を設けて、相対評価を実施している。

 

体制・人材面の施策:操作説明会は全社員参加必須、そこに行けば悩みが解決する特設サイトも

 次は、体制・人材面の課題である、ITリテラシーを向上させるための施策だ。打田氏は「不動産会社なので、システムの操作が苦手な社員が多い。CRMへのログインや入力ができない社員も当たり前にいた」と振り返る。

 

 まずは基本として、1時間半の操作説明会を、毎年必ず2回以上実施している。東京本社だけではなく、北海道から九州まですべての支店にも訪問して、すべての社員に参加してもらった。さらには、CRMの情報を集めた特設サイトを作り、「そこに行けば悩みが解決する」場所を用意した。誰でも分かりやすいようマニュアル動画も掲載した。

 

 「デジタルリーダー」制度も設けた。打田氏が所属するCRM推進チームは、合計6名の小編成チームで約700名の社内ユーザーからの問い合わせや個別開発プロジェクトを捌いていた。

 

 人手不足を解消するため、各部門で「デジタルリーダー」を任命し、営業が困ったときの相談役やレポート・ダッシュボード・ビューの作成などを担ってもらった。リーダーには、セールスフォース製品がアップデートするたびにトレーニングを受講してもらい、「なるべく現場に近いところ」にスペシャリストを育成。資格取得の補助制度も設けた。

 

 問い合わせ対応については、Salesforceの「ケース」に集約。それをナレッジとして蓄積して、対応の標準化を進めた。2022年は1件の問い合わせに約22時間かかっていたが、現在は約2時間まで処理時間を削減している。

 

技術面の施策:商談成約率の予測スコアリングでデータドリブンな営業モデルへ

 最後は技術面における課題、データをどう活かせるのかを営業に理解してもらうための施策だ。

 

 同社のシステム構成は、Sales Cloudを中心に据え、取引先・商談・活動だけではなく、API連携で他の基幹システムの情報も集約している。データが重複しないよう法人データベースの「uSonar(ユーソナー)」を用いてクレンジングし、集約されたデータはGoogleのBigQueryを通してTableauで可視化できる仕組みだ。

 

 このように、データを可視化できるようにはしたものの、営業からは「結果はわかったけど、で、どうしたらいいの」「これじゃ動けない」「管理側が見たいだけでしょ」といった意見が多発。現場の営業活動でどう活かせるかを改めて示すために、SFAを徹底的に見直した。

 

 行き着いたのは、営業の日々の問いに仮説が立てられる機能、接触履歴の可視化、商談のスコアリング、商談の掘り起こしのダッシュボードといったものの実装だ。

 

 仮説が立てられる機能は、例えば、商談の見極めから、次のステップが明確になっているか、キーマンを抑えられているか、競合先はどこなのかなど、商談状況を把握して、営業活動が停滞した時に道筋を示してくれるものだ。

 

 接触履歴の可視化は、各取引先のページから、インサイドセールスからフィードセールス、GoogleアナリティクスのデータやAccount Engagementなど、すべての接触機会を確認できるようにしている。「キーとする顧客が何に関心を持っているのか、一目で把握できるようにした」(打田氏)。

 

 商談のスコアリングや掘り起こしは、過去の商談の“変数”となる取引先や業種、情報ルート、手数料サイズ、物件といった情報を、すべて商談と紐づけることで実現した。これらの変数を統計解析して、商談データを揃えた段階で成約率のスコアを算出することができた。「AIとの違いは、成約率の根拠を示せるので、営業マンが納得して動けること」と打田氏。

 

セールスフォースの定着化に伴い過去最高益を達成

 同社がセールスフォース製品を導入したのは2014年。CRMの利活用の高度化と合わせてビジネスも成長を続け、2022年までの成長率は6.1%を記録。創業50周年となる2022年度は過去最高益を達成した。

 

 目標としていた定着化に関しても、現在は98%が毎日セールスフォース製品にログインし、ダッシュボードを見ることが習慣となった。営業への利用実態のアンケートでは、80%以上が商談のフェーズ管理や予実管理、セールフォース製品での会議が出来ていると回答しており、定着化は着実に進んでいるという。

 

 定着化に伴ってデータも蓄積され、登録された名刺の数は現在93万枚に。取引先も、Salesforce導入時の約6万社から約15万社と倍増している。商談についても、年間約1万2000件が作成されているそうだ。

 

 今後は、これらの蓄積したデータをAI活用にも活かしていく予定だ。ChatGPTの活用をメインに据え、汎用性の高い領域から専門性を伴う領域まで、AIをどう使っていくかを整理している。ChatGPTと蓄積された商談データを組み合わせて、注力すべき商談であったり、各商談における課題や対応策を提示してもらうといった取り組みにチャレンジしているという。

 

何より大きかったのは社長の強いメッセージ

 6名の審査員と決勝大会の視聴者の投票の結果、三菱地所リアルエステートサービスの取り組みは見事優勝に輝いた。2024年6月11日と12日に開催された「Salesforce World Tour Tokyo 2024」で、その表彰が行われた。

 

 打田氏は「商談の管理や会議の資料などを、すべてSalesforceでやっていこうと大きく舵を切ったのが今の結果につながった。営業とはかなりぶつかったが、たくさんコミュニケーションをとって、何よりも社長や幹部から『絶対やるんだ』という強いメッセージを出してもらえたことが大きかった」とコメントしている。

 

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp