セールスフォース・ジャパン社長が説く「企業向けAIの課題と対策」とは

AI要約

セールスフォース・ジャパンとColt Technology Servicesの代表者の明言を紹介。

セールスフォース・ジャパンの小出伸一氏がAI時代と顧客とのつながりについて述べた内容。

企業向けAIの課題やSalesforceの提案する5つのステップについて。

セールスフォース・ジャパン社長が説く「企業向けAIの課題と対策」とは

 本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。

 今回は、セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏と、Colt Technology Services アジア太平洋地域社長の水谷安孝氏の「明言」を紹介する。

「AI時代も新しいカタチで顧客とつながっていく」(セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏)

 米Salesforceの日本法人セールスフォース・ジャパンは先頃、「Salesforce World Tour Tokyo/CRM+AI+Data+信頼の力でビジネス成長の未来を切り拓こう」と題したプライベートイベントを都内ホテルで開催した。小出氏の冒頭の発言はその基調講演で、同社の基本姿勢を強調したものである。

 グローバルのCRM市場をリードしてきたSalesforceは1999年の創業以来、「新しいカタチで顧客とつながる」ということをビジョンとして掲げてきた。それを紹介した小出氏は、「今大いに話題になっているAIをCRMと組み合わせれば、『新しいカタチで顧客とつながる』という状況がさらに深化していく」と力を込めた。冒頭の発言は、小出氏のそうした思いを「AI時代も」という表現でアレンジしたものだ。

 「私たちは今、AI変革の中にいる」と述べた同氏は、これまでのAIの変遷について次のように説明した。

 「どういうタイプのAIが私たちの前に現れたかという観点で言うと、まず10年ほど前に『予測AI』が登場した。当社の最初の『Einstein』がまさしくそれだ。そして次に昨年来、大ブームになっている『生成AI』が登場した。人間と自然言語で対話するテクノロジーだが、生成AIで驚くのは世界で1億人のユーザーを2カ月半で獲得したことだ。新たなテクノロジーが広がるスピードを一気に早めた。そして今、その次にさまざまなところで取り組まれているのが『自律型AI』だ。さらにその先には、人間と同様に対応できる『汎用(はんよう)AI』が出現するだろう」(図1)

 こうしたAIは、企業にどんなメリットをもたらせるのか。小出氏は「AIは全ての企業を強くしていく」と述べ、メリットとして「生産性の向上」「利益率を高める」「より良いカスタマーエクスペリエンス(CX:顧客体験)の構築」といった3つを挙げた。これは言い換えれば、「AIで全ての企業を強くしてみせる」との同氏の思いが込められているように、筆者には聞こえた。

 では、一般向けAIと企業向けAIにはどのような違いがあるのか。小出氏は次のように説明した。

 「AIは、生成AIによる『ユーザーインターフェイス(UI)』、大規模言語モデル(LLM)などの『基盤モデル』、そして『データ』という3層のコンポーネントからなる。この中で一般向けと企業向けで大きく異なるのはデータだ。一般向けはインターネット上で公開されているデータを使うが、企業向けは企業内のデータをいかにうまく活用できるかがAIの品質を高めるポイントになる」

 ただし、企業内のデータを活用する際に、多くの企業で課題が浮かび上がるという。それは何か。

 「さまざまなアプリケーションがある中で、データを一元的に利用できない。すなわち、アプリケーションとデータが分断されている企業が多いのではないか。しかもデータは構造化データだけでなく非構造化データもある。むしろ、非構造化データのほうが大半を占めるだろう。AIのパワーを十分に活用するには、まずデータの分断を解消する必要がある」

 小出氏はさらに企業向けAIの課題として、セキュリティとプライバシー、ハルシネーションなどを挙げた上で、同社として「AI企業へ変革する5つのステップ」を図2のように提案し、それぞれのステップで同社のソリューションを適用できるようにした。

 こうしたストーリーが描けるのもAIのパワーを発揮しやすいCXを生業(なりわい)としているSalesforceならではだろう。5つのステップの進展ぶりに注目していきたい。