JR東海、AWSクラウドを山梨リニア実験線で活用 保守用車のデータ分析や電気設備の異常検知を実現

AI要約

AWS(Amazon Web Service)のイベント「AWS Summit Japan 2024」2日目(6月21日)の基調講演では、JR東海の水津亨氏が、リニア中央新幹線の実験に携わる技術者がAIとAWSを活用して状態監視保全を実現した事例を紹介。

発表内容は2つのシステムに分けられ、保守用車のデータ分析と機械学習による異常検知が取り上げられた。

JR東海はAWSを採用し、リニア実験線のデータドリブン運営を推進。AWS IoT SiteWiseやSageMakerなどを活用し、自動化と効率化を図っている。

JR東海、AWSクラウドを山梨リニア実験線で活用 保守用車のデータ分析や電気設備の異常検知を実現

 AWS(Amazon Web Service)のイベント「AWS Summit Japan 2024」2日目(6月21日)の基調講演の中で、東海旅客鉄道株式会社(JR東海)の水津亨氏(中央新幹線推進本部 リニア開発本部 副本部長)がゲストとして登場。山梨リニア実験線において、現場でリニア中央新幹線の実験に携わる技術者の内製により、AIを含むAWSのサービスを使って、リアルタイムでの状態監視保全や保全業務の効率化を実現した事例を発表した。

 この事例については、同日にAWSからもプレスリリースが出された。また、具体的な取り組み内容が、AWS Summit Japan 2024のブレークアウトセッションで解説された。

 今回発表されたのは2つのシステム。1つ目は、保守用車のリアルタイムでのデータ分析と可視化で、2つ目は機械学習による電気設備の異常検知だ。

■ リニア実験線のデータドリブン運営に向けて周辺システムも内製開発

 基調講演中で水津氏は背景として、リニア新幹線は、運転手が乗車するのではなく地上から遠隔制御する方式のために、データドリブン運営が必然となっていると説明した。そして運営についても、これまでの人を中心にそれを順次システムしていく形ではなく、データドリブン運営のためにシステムをまたいだシームレスなデータ連携が必要になると語った。

 そのため、開発本体である運行に関わる部分とは別に、計測や検査などの個別のシステムについても、自らシステムを設計して内製化していく方針だという。さらに、最新技術を継続的に取り入れて進化していく方針であり、「それにはクラウドが不可欠だと考えている」(水津氏)とのことで、AWSを採用し支援を受けていると水津氏は説明した。

 なお、記者会見で水津氏が語ったことによると、山梨のリニア実験線では車両メンテナンスから走行まで若手が中心に取り組んでおり、ITも含めて以前からトライアル&ランで取り組むマインドがあったという。例えばデータをExcelのマクロで分析するなどしており、そこからクラウドサービスを使う方向に移ったとのことだった。

 水津氏は最後に、AWSは非常に重要なパートナーであり、これからも伴走してほしいと語り「みなさんの期待にこたえるために、全力で邁進していく」と締めくくった。

■ ブレークアウトセッションで内容を解説

 取り組み内容については、ブレークアウトセッション「リニア中央新幹線における設備 IoT 化に向けて~データドリブンによる徹底的な省人化の実現~」で解説されたので、その様子を紹介する。

□AWS IoTから、Grafanaによる可視化とS3による蓄積にデータを分ける

 1つ目の、保守用車のリアルタイムでのデータ分析と可視化については、JR東海の宮本真樹氏が説明した。

 保守用車とは、リニアが走行するために必要な保守作業を行う車だ。その中で今回は、始発走行前に確認走行を実施する電動確認車の故障が対象となった。

 この保守用車では、これまで故障が発生したときなどに、電話で状況を報告していたために、正確に把握することが困難で時間もかかるという課題があった。そこで、故障発生前に異常な変化をとらえて対処したいというのが目的だ。

 リアルタイムに取得するために「AWS IoT SiteWise」を利用。そして表示画面にOSSの可視化ツール「Grafana」を利用し、変化をとらえて対処するのにGrafanaのアラームを利用した。さらに、CBM(状態基準保全)実現に向けて各種データを蓄積することを想定して、「Amazon S3」を利用した。

 構成としては、保守用車からの1320項目のデータを、リアルタイム状態監視のライン(252項目)とデータ蓄積のライン(1320項目)に分けて、それぞれ処理する。ちなみに、データ数を絞った理由はコストとのことだった。

 具体的には、AWS IoTのIoTルールで2系統に分ける。リアルタイム状態監視はAWS Lambdaを経由してAWS Fargate上のGrafanaで可視化する。そして蓄積はAWS S3に送る。

□音からの異状検知について、SageMakerパイプラインで推論も学習も自動化

 2つ目の、機械学習による電気設備の異状検知については、JR東海の藤原海渡氏(東海旅客鉄道株式会社 中央新幹線推進本部 リニア開発本部 主任)が説明した。

 対象となるのは、電気の入・切をするスイッチである開閉器だ。これについて、電流を流したときの動作音に着目した非接触の異状検知手法を独自開発した。

 異常検知手法としては、機械学習を使う。正常データと、故障を模擬して作った異常データを用意し、MFCCとメルスペクトログラムにより特徴抽出を行った。そして、データ取得から分析・可視化まで自動化することで、誰でも遠隔監視できるようにした。

 具体的には、マイクからの音声がAmazon S3に保存され、そこから1日分がAmazon EventBridgeとAWS Lambdaから読み出され、SageMakerのパイプラインを呼び出す。これにより、推論と学習を自動化する。

 そして、異常検知数と動作回数をAmazon QuickSightのダッシュボードで可視化する。