『虎に翼』岡田将生「なぜ謝るのですか?」の重要な問い “持ちつ持たれつ”を考える週に

AI要約

新たな地方支部で裁判官として仕事をスタートした寅子。しかし、予想外の歓迎ムードに戸惑いつつも、支部の職員たちとの微妙な関係に悩む。

寅子は優未との距離を縮めようと奮闘するも、溝は埋まらず、家庭と仕事のバランスに悩む。そんな中で、航一との出会いが新たな気づきをもたらす。

寅子は謙虚さを持ち、与えられた仕事や家庭を全力でこなそうとするが、謝ることばかりでなく、感謝の気持ちも大切にするべきだ。

『虎に翼』岡田将生「なぜ謝るのですか?」の重要な問い “持ちつ持たれつ”を考える週に

 地方支部で裁判官として一から経験を積むことになった寅子(伊藤沙莉)。娘の優未(竹澤咲子)とも今度こそしっかり向き合うと心に決め、新天地である新潟へ向かう。だが、『虎に翼』(NHK総合)第76話では、早くも寅子の行く末に暗雲が立ち込めた。

 出勤初日、寅子は神妙な面持ちで新潟県三条支部の入り口に立った。東京から来た女性判事として強い風当たりを受けることを覚悟していたからだ。しかし、意外にも支部の職員たちは歓迎ムード。まるでお姫様のような扱いを受け、寅子は拍子抜けする。でも、安心するのはまだ早い。きっとここまで本作を追ってきた視聴者なら、いや~な違和感を覚えたのではないだろうか。

 この違和感、既視感があると思ったら、寅子が明律大学女子部法科から本科に進学したときだ。あのときも寅子たち女子部の生徒は戦闘モードだったが、花岡(岩田剛典)をはじめ、男子学生たちから大歓迎されて拍子抜けした。けれど、蓋を開けてみれば、彼らは寅子たちを見下していたし、そこにリスペクトの気持ちは一切なかった。それなのにあたかも尊重している風な態度に覚えた白々しさを、支部の職員たちの振る舞いにも感じるのだ。

 特に印象に残ったのは、この支部に2人しかいない弁護士の杉田太郎(高橋克実)・次郎(田口浩正)兄弟。どちらも愛想がよく、「田舎は持ちつ持たれつ」と何かと親切にしてくれる。だが、買い物代行の申し出を寅子が断ると、態度が一変。寅子が去った後に、太郎は笑顔で舌打ちする。郷に入っても郷に従わない寅子のことが気に入らないのだろう。他の職員に至っても、常に何か言いたげでなかなかやりづらい状況だ。

 そんな中で支部長として膨大な仕事を抱え、手一杯の寅子。それでもどうにか時間を作り、優未と距離を縮めようとするが、溝は簡単に埋まらない。優未は寅子の前で相変わらず“良い子”でいようとするし、親子の会話もぎこちないままだ。優未を“スンッ”とさせてしまったのは寅子自身だが、一生懸命慣れない家事をやり、張り付いた笑顔でどうにか会話の糸口を見つけようとする寅子を見ていたら、なんだか気の毒にも思えてきた。今の寅子はやれるべきことをやっている。これ以上、何が足りないというのだろう。

 そのヒントが、航一(岡田将生)との会話に隠れていたように思う。昨年から新潟本庁刑事部に配属されている航一は交通事故の取り扱いについての説明で各支部を回っており、そのついでに寅子が以前から庶務課長の深田(遠山俊也)に催促されていた庁舎増築の予算計画書を回収しにきた。「わざわざご足労おかけして申し訳ございません」と計画書を手渡す寅子に、航一は「なぜ謝るのですか?」と聞く。その言葉には何かしらの含みがあった。

 たしかに提出が遅れていたのは事実だが、寅子は他にもたくさん仕事を抱えているし、航一が回収に来たのもあくまでも“ついで”であって、わざわざそのために足を運んだわけではない。それなのに反射的に謝ってしまった寅子。見返してみると、寅子は支部の職員にも、優未にも謝りまくっている。「自分は傲慢だった」という内省がそうさせるのだろう。

 寅子はこの新潟で謙虚に一から全てをやり直そうとしている。だけど、実際問題、寅子が抱えているものは多すぎる。全てを完璧にこなすのは無理だし、きっと誰もそれを望んでいない。今の寅子に必要なのは仕事にしても家事にしても頼れるところは頼って、謝るよりも「ありがとう」と感謝することなのではないだろうか。太郎のいう“持ちつ持たれつ”には危険な香りがするけれど、良い意味での“持ちつ持たれつ”もこの世にはたくさんあるのだから。