『虎に翼』優未を演じる竹澤咲子の名演光る 家族のすれ違いを印象付けた“機微”の表現

AI要約

NHK連続テレビ小説『虎に翼』第15週では、主人公の寅子が仕事一色の日々を送りながら家族とのすれ違いが深まる様子が描かれた。

寅子の活躍と家族との溝が広がる様子が、家族間のバランスの難しさを象徴している。

特に子役の演技や巧みな演出を通じて、家族の「すれ違い」がリアルに描かれ、視聴者に印象を残す内容となっている。

『虎に翼』優未を演じる竹澤咲子の名演光る 家族のすれ違いを印象付けた“機微”の表現

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』第15週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」。その焦点は、「家族のすれ違い」にあった。

 主人公の寅子は、「世の娘さんたちの希望の星」として脚光を浴び、メディア露出と講演依頼の増加に伴い、仕事一色の日々を送る。しかし、その成功の影で描かれたのは、家族との距離が徐々に広がっていく様子だった。寅子の華々しい活躍と、それに伴う家庭生活の変化が、今週のストーリーの核となっている。

 仕事へのめり込み、猪爪家の大黒柱となった寅子。周りから羨望の眼差しを浴びる機会が増える一方で、その多忙な日々は家族との絆を徐々に蝕んでいった。夕食時の不在に始まる些細な出来事の積み重ねが、やがて家族間に深い溝を生み出していく。娘の優未(竹澤咲子)や甥っ子たちは寅子の前で取り繕うようになり、その裏側にある本音を寅子は見抜けずにいた。こうした家族の「すれ違い」の描写は、現代社会における仕事と家庭のバランスの難しさにも通ずる部分があり、我が身のことのように苦しくなった視聴者もいるかもしれない。

 中でも、こうした猪爪家のすれ違いを、何気ない日常の一コマで象徴的に描き出したのが第73話のいろはカルタの場面だ。寅子の帰宅時、普段は聞こえない子どもたちの楽しげな声が漏れ聞こえる。一見ただの遊びに見えるこの場面にも、寅子と家族の溝を感じさせる巧みな演出が隠されていた。

 実は、いろはカルタの句には深い意味が込められていた。「犬も歩けば棒に当たる」は寅子の行動がもたらす災難を、「ちりも積もれば山となる」は家族の蓄積された我慢の臨界点を、「知らぬが仏」は寅子が気づいていない家族の真の姿を暗示していたのだ。子どもたちの無邪気な遊びが、知らずして家族の危うい状況を映し出す「皮肉」な演出となり、寅子の現状をより鮮明に浮かび上がらせたのである。

 こうした巧みな演出、そして子どもたちの些細な仕草や表情が、家族の「すれ違い」をより心に染みる形で描き出し、第15週を特に印象深いものにしたと言えるだろう。

 子役の演技という点で印象に残るのは、優未を演じる竹澤咲子だ。31点のテストを84点に改ざんしても、寅子はその内容をろくに見もせず、間違った箇所を見直して次は100点を取りなさいと言う。この場面で、優未は大きな声で元気に返事をする。しかし、そのわずかな間に、優未の本当の気持ちを汲み取った視聴者も多かったのではないだろうか。優未の声の裏に隠された複雑な感情、母への愛情と寂しさが入り混じった心情が、ほんの一瞬の間を通して巧みに表現されていた。

 また、新潟についてくることを寅子が頼んだ時の、間を置かない「はい」という優未の返事も印象的だった。声だけでは、母への無条件の信頼にも捉えられるこの素直な返事は、これまで自分の心を押し殺してきた優未が寅子に見せた「子どもらしさ」でもあるように見えた。しかし、その後のカットで優未の「スンッ」とした顔が映し出されることから、優未の本心は未だわからない。

 優未役は成長に伴いキャストが変わるが、現在の小学生時代の優未を演じる竹澤咲子はNHK大河ドラマ『光る君へ』でまひろ(吉高由里子)が文字を教えていた少女・たねの役で出演。その演技は視聴者から好評を博し、子役としての才能を示した。ドラマ『100万回言えばよかった』やマクドナルドのハッピーセットのCMでも活躍しており、その愛らしい笑顔と自然な演技で注目を集めている。かつて芦田愛菜や寺田心が所属していたジョビィキッズに所属していることからも、今後の活躍が期待される子役の1人だ。

 第15週のラストでは、いよいよ優未と寅子の2人きりの生活が本格的に幕を開けた。これまで寅子の前では「お利口さん」を演じてきた優未の、心からの笑顔を新潟で見られる日は来るのだろうか。