僧侶の英月さんが身震いした「関心領域」が映し出す〝見えていないもの〟

AI要約

80年前のポーランドでのルドルフ一家の物語。ルドルフはアウシュビッツ強制収容所の所長で、家族と収容所の隣に住む。

映画は謎解きの要素があり、すべてが示唆的で見る者に訴えかける。過酷な収容所の環境が暗示される。

映画は目隠しを通し、現実や自己認識に疑問を投げかける。正解はなく、観客に自己反省を促す。

僧侶の英月さんが身震いした「関心領域」が映し出す〝見えていないもの〟

約80年前のポーランドでの、ルドルフ(クリスティアン・フリーデル)一家の物語です。彼らが住むのは、厳しい冬の寒さから守ってくれる暖房完備の立派な2階建ての家。夏には花が咲き誇る広い庭のプールで泳ぐこともできます。そんな一家に大きな変化が訪れたのは、夫の転勤がきっかけ。4年間住み続けた素晴らしい環境の家を離れることを拒む妻ヘートヴィヒ(ザンドラ・ヒュラー)は、子どもたちとここに残ると言い張ります。と、今も日本のどこかで起きているホームドラマのような筋書きですが、違うのはルドルフがアウシュビッツ強制収容所の所長だということ。そして一家が住む家が、その隣にあるということです。

この映画は謎解きのようです。ささいな言葉、表現、小道具など、すべてが示唆的であり、見ている者に訴えてくるような力があります。収容者たちが苦しめられるような暴力は描かれませんが、映し出されるすべてが、映されていないものを浮かび上がらせています。例えば所長の家に暖房があるということは、収容所内にはないということを暗示していて、その過酷さに身震いします。

冒頭、ルドルフがお遊びで目隠しをされるシーンがあります。ここには現実に起こっていることだけでなく、自分自身が何者かということも見えていない、もしくはその両方を見ることを拒む気持ちが表されているのかもしれません。謎解きと言いましたが正解はなく、これは私の受け止めです。けれども、私も目隠しをしているのではないか? はたまた、自分自身を、そして物事を正しく見ていると思い込んでいないか? そんなことを問われた映画です。

東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。