球道者ベッツ 大谷翔平と1、2番コンビ組むドジャースの要が語る哲学と生き方

AI要約

ムーキー・ベッツ内野手の野球哲学について。彼の自己を失わずにベストを目指す姿勢や練習への取り組み、そして遊撃手としての挑戦などが語られる。

ベッツの打撃や守備に対する情熱、そしてアイデンティティーに関する考え方。自分を信じ、他人と比較することなく自己を理解することの重要性について。

熱血指導者であるミゲル・ロハス内野手との関係、遊撃手への挑戦、そしてオンとオフでの様子など、ベッツの日常生活やプレーについて。

球道者ベッツ 大谷翔平と1、2番コンビ組むドジャースの要が語る哲学と生き方

<SHO-BLUE>

 ドジャースの不動の1番打者ムーキー・ベッツ内野手(31)が、自身の野球哲学を語った。自分らしさを失うことなく、ストイックに「ベスト・オブ・ベッツ」を目指すため、日々の基礎練習を怠らない。昨年、外野手から本格的に内野手に転向し、今季は遊撃手で挑戦。守備に定評があるミゲル・ロハス内野手(35)の熱血指導を仰いでいる。20年にレッドソックスから移籍して5年目。大谷翔平投手(29)と1、2番コンビを組む常勝軍団の攻守の要は、特有の“生きるチカラ”があった。

 ■熱 一の巻

 ベッツは第1打席の前に必ず、バットのグリップエンドで真新しいグラウンドに文字を描く。「E・C」。祖母エッタ・コリンズさんのイニシャルだ。「だいぶ前に亡くなったんだけどね。高校の時からルーティンとして続けているよ」と穏やかな表情で明かした。野球やバスケット、ボウリングに没頭した少年時代、見守ってくれた祖母に全力プレーを誓っている。

 ■打 二の巻

 数字には表れない、情熱がベッツの野球道の神髄だ。野球少年の頃から体は細く小さかった。打席に立っても「他チームはなるべく(守備で)前進するよう指示していた。僕はとても体が小さかったから」。打球は飛ばないとのレッテルを貼られた。「両親からずっと『彼らの頭を越えるように打つんだ』って。そうして、どうやってホームランを打つか学んできた」。負けん気が、原動力だった。

 ■己 三の巻

 レッドソックスからの指名は5巡目。11年のドラフト全体で172位だった。今やMLBでスター選手の地位を確立した。外野手の頭を越すことを目指し、プロ入り後も長打力のある選手に憧れた。だが、上を見るあまり、道に迷いかけた。

 「ビッグパピ(デービッド・オルティス)やダスティン・ペドロイア。すごい選手たちとたくさんプレーしてきて、彼らのようになりたい、ホームランを打ちたいと思っていたけど、その結果、多くの失敗をした。それは僕がやるべきことではなかった。ホームランを打とうとすることは、僕らしいことではなかった」

 体つきや選手としての特徴も違うはずなのに、希代のレジェンド選手たちを強く意識してしまった。そして、失敗して気付いた。

 「自分がどういう選手か、理解することはとても大事なこと。自分を信じて、ただ自分らしくいたらいい。他の人のようにやろうとしてもできないんだ。それは、自分らしいことではないから。ショウヘイ(大谷)で言えば、彼がやっているようなことは僕にはできない。だから、トライすることすら意味をなさない」

 周りを見渡せばパワーヒッターはいくらでもいる。フリー打撃で心がける意識は「同じスイングを安定して繰り返す」とシンプルだ。練習で、本塁打を打つことはない。それでも実戦では別人のように打ち、一昨年から23年までの2年間で74本塁打。なぜか。「分からない」と、自己分析しても首をかしげる。「たぶん相手投手が強いボールを投げるから、アドレナリンがより多く出て、僕にもっとパワーをくれるんじゃないかな」。自分らしさを超越した打撃は、集中力と気迫が生んでいるとしか言いようがない。

 ■挑 四の巻

 年月を経て、たどり着いたアイデンティティーとは何か。「僕は仕事人なんだ」と胸を張る。高校以来となる遊撃手転向。10年以上前の感覚はほぼ失っている。「本当に難しく、ハードなこと。でも、楽しい」。超一流選手となってから最難関のポジションへの異例の挑戦。基礎練習の反復と経験値の蓄積に重きを置く。だから、日々のアーリーワークでハンドリングとノック、スローイングの守備練習を欠かさない。

 低い体勢からグラブの芯で捕球後、両手を広げて基本の形を作る。守備に定評がある内野手ロハスから助言をもらい、付きっきりで体に覚えさせている。「基礎は、みんなにとっても基礎。それが変わることはない。練習して、練習して、どんな選手でどんなことができるか、僕は今、理解し始めている。それはとても面白い」。うまくなるため、挑戦を楽しむ心がある。

 ■守 五の巻

 情熱を注ぎ、人生をささぐ日々。ベッツにとっての野球とは-。「全て。個性を作り、家族のために住居や食べ物を与えてくれる。生きる道のようなもの。野球は僕にとっての全てだよ」。まん丸な目を輝かせながら言った。【斎藤庸裕】

 ◆ムーキー・ベッツ 1992年10月7日、米国テネシー州ナッシュビル生まれ。11年にドラフト5巡目でレッドソックスに指名され、14年6月29日のヤンキース戦でデビュー。18年に首位打者とMVPを獲得し、20年シーズンからドジャースに移籍した。移籍後に内野手(主に二塁)としても起用され、複数ポジションをこなす。175センチ、81キロ。右投げ右打ち。今季年俸2500万ドル(約38億7500万円)。

 ■外野手から超異例の遊撃コンバート

 懸命に取り組むベッツを、ロハスが熱血指導で支えている。「彼はまだ、キャリアで10年ほどプレーできる。僕はもう11年目だし、引退が近づいている。あと2~3年くらいかもしれない。毎日プレーできないなら、違う役割がある」。ベッツの守備が向上すれば、出場機会は減る。それでも「彼がうまくなれば、チームはもっと勝てるようになる」と熱く語った。

 ベネズエラ出身の35歳。練習で重視しているのは基礎の反復だ。捕球体勢からスローイングまでを繰り返し、時には映像を見ながらチェックする。身ぶり手ぶりで手本を見せながら、献身的な姿勢でサポートを続け、「キャリア終盤の選手たちがどう振る舞っていたかを今まで見てきた。(マーリンズ時代に)イチローとも一緒にプレーして、どうやってチームに貢献しているかを学んだよ」と、自らの経験を還元している。

 ロハスの熱意にベッツは「彼は、僕がショートでうまくなれる最大の理由。毎日僕といて、話して、一緒に分析してくれる。彼がやってくれることの全てに感謝している」と話した。攻守の要を育てるベテラン内野手。常勝チームのセンターラインに固い絆がある。

 ■オンとオフで別人

 <取材後記>

 戦闘モードの時とは雰囲気が全く違った。今季チーム48試合目で初の欠場となったタイミングで、ベッツは取材に応じた。通常なら試合開始の約4時間前にはアーリーワークを行うが、ベンチ待機が決まっていたこの日は、3時間前になってもなかなか球場に現れなかった。約10分間の取材に少し眠たそうな顔で登場。がっちり握手で始まり、握手で終えた。2日後、改めて感謝を伝えると「ノープロブレム!」と、またまた握手でニコリと笑った。

 休養日のリラックス感が逆に、シーズン中の過酷さを物語っている。信頼ある個人トレーナーと専属シェフに体調管理を任せ、食事は野菜や果物、鶏肉が中心。揚げ物はなるべく避けるストイックな生活が続く。

 フィールドの中心で、勝敗の鍵を握る攻守の要。20日のダイヤモンドバックス戦、緩慢なプレーで安打とした左翼手T・ヘルナンデスに鋭い視線を送った。オンとオフで全く別人になる。求道者たる覚悟を感じた。【MLB担当=斎藤庸裕】