【社説】辺野古埋め立て 軟弱地盤では無理がある

AI要約

防衛省は沖縄県名護市辺野古で、米軍の新基地建設に必要な埋め立て工事を本格化させた。工事は軟弱地盤や環境への影響が懸念されており、技術的課題や費用面でも課題が多い。

計画では巨大なくいを使用して地盤を安定させるが、地盤の深さについて専門家の意見が分かれる中、沖縄県が地盤の追加調査を求めている。

埋め立て地周辺には絶滅の危機にある動植物が生息し、豊かな海洋生態系に影響を及ぼす懸念もある。工期延長や費用増大など、問題は後を絶たない。

【社説】辺野古埋め立て 軟弱地盤では無理がある

 防衛省は沖縄県名護市辺野古で、米軍の新基地建設に必要な埋め立て工事を本格化させた。普天間飛行場(宜野湾市)の移設先である。

 現場の大浦湾は「マヨネーズ状」といわれる軟弱地盤が海底に広がる。前例のない大規模な難工事で、環境に与える影響が懸念されている。費用も膨らむばかりだ。

 これほどの工事を沖縄県の反対を押し切って強行するのは無理がある。政府は一度立ち止まるべきだ。

 計画によると、軟弱地盤に7万本以上のくいを並べ、護岸を造成して埋め立てる。水面から70メートルの深さまでくいを打ち込めば地盤は安定すると防衛省は説明する。

 県は専門家の意見を基に、軟弱地盤は最深で90メートルに達すると指摘する。政府に地盤の追加調査を要請している。

 今回と同じような工事は、国内では水面からの深さ70メートルまでの実績しかない。技術面から見て難航は必至だ。

 そもそも、埋め立てに適した場所だろうか。大浦湾一帯には絶滅の恐れがある200種以上の動植物が生きているといわれる。

 沖縄本島周辺で最大規模の海草藻場やサンゴ礁が生き物たちの「命のゆりかご」として発達し、米国の国際環境団体は保護が必要な「ホープスポット」(希望の海)に日本で初めて認定した。

 豊かな海に大量の土砂を投入すれば生態系を壊しかねない。県や環境団体が反発するのは当然だ。

 完成したとしても、埋め立て地には軟弱地盤と固い地盤が混在する。地盤が不均一に沈み、ゆがんでしまう現象が長期にわたって発生する恐れがあるという。

 基地の維持管理にかなりの費用がかかる上、有事に滑走路が補修中で使えない事態もあり得る。

 費用は青天井の様相だ。地盤改良に伴う設計変更で、総工費は当初の2・7倍に相当する9300億円規模に膨らんだ。2022年度までに半分近い約4300億円を支出している。

 今後の地盤改良工事によって大幅な増額は確実だ。県は最大2兆5500億円になると試算している。工期も大幅に延び、完了は33年4月ごろと見込まれる。

 普天間飛行場の代替施設として辺野古沿岸を埋め立て、V字形滑走路を造る現計画は日米合意から20年近くが経過した。いま、米軍関係者から「滑走路が短い辺野古の新基地は使い勝手が悪い」との声も出ている。

 移設の目的は、市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性をなくすことだ。政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と繰り返すが、当初5年だった埋め立て工期の目算は外れ、普天間返還の時期は遠のくばかりだ。

 政府は県が求める地盤の追加調査に応じるべきだ。このまま工事を突き進めても行き詰まるのではないか。