学校のアンガーマネジメント―叱る時に「前にも」「なんで?」はNG!

AI要約

児童の指導においてNGワードを避けることが重要であり、具体的な指導方法を学ぶ必要がある。

NGワードの代わりに、具体的なリクエストや正確な事実の伝え方をすることで、児童の理解と協力を得られる。

先生の観察力と言語力を磨き、児童とのコミュニケーションを円滑にすることが大切である。

学校のアンガーマネジメント―叱る時に「前にも」「なんで?」はNG!

 久しぶりの2年生の担任。教室内で児童が指示を聞かず、トラブルを起こしている状況を目にするたびに「前から静かにって言ってるよね!」「なんでケンカした?」「いつも遅刻するよね!」「ちゃんと掃除して!」と思わず叫んでしまいます。何度も指導しているのに児童の実態が変容しません。なぜ変容を図れないのかを知り、上手に叱るスキルを身につけたいと思っています。

 児童を叱る際、「前にも」「なんで」「いつも」「ちゃんと」を使っていると自覚しておられてすごいなと思います。アンガーマネジメントを学ぶ以前、私はそんなことすら気づかずに怒ってばかりいました。そして、先生と同じように指導の成果が上がらないことに苛立っていました。児童の言動が変容しないのは児童のせいだと思い込み、同じ言葉を繰り返していたのです。

 6月号でも解説したとおり、私たちを怒らせるものの正体は自分が信じている「べき」。「べき」は自分にとって「全部正解」ですから、ついつい強く言いがちなのです。

 実は、これら4つの言い方はNG ワード。

 つまり、NG ワードだと知らずに使っているため、指導の成果に結びついていなかったのです。

上手に叱れるようになるには「なぜNG ワードなのか」を学ぶことが必要です。理由がわかってこそ、的確に指導にあたることができます。

1.前にも言ってるけど ➡ 「今」のことだけ

 「前から言ってるけど」「何度も言ってるけど」という言い方は「過去を持ち出す言葉」です。

 先生は「あの時にこう言った」と覚えていても、児童はいつのことなのかがわかっておらず、今のことと繋がっていません。その状態で叱ると、先生へ不信感を抱いてしまいます。「今」目の前で起きていることだけ注意することが大事です。

2.なんで? ➡ 今度からこうしてほしい

 「なんでそうした?」「なぜできない?」という言い方は相手を「責める言葉」です。なぜと聞いても小学校2年生の語彙力では理由を説明できず、先生に責められたと感じます。「今度からこうしてほしい」とリクエストを具体的に伝えることが大事です。

3.いつも ➡ 事実を見る

 「いつも」「絶対」「必ず」等は100%のときに使う「強い言葉」です。ところが、2、3回同じことが起きると使ってしまいがち。児童は「いつもじゃないのに」と、事実に即していないことに不満を感じます。「今週2回遅刻している」というふうに、児童の事実に即した正確な言い方になるように工夫しましょう。児童を観察し、記録に残しておくことが大事です。

4.ちゃんと ➡ 6W3Hを明確に具体的に伝える

 「ちゃんと」「しっかり」「きちんと」等は、「程度言葉」といいます。人によってその程度が違うため、児童は「ちゃんとやっているのに」と不信感をもってしまいます。いつ、どこで、だれが、だれに、何を、なぜ、どのように、どれだけ、いくらなのかと6W3Hを明確にして、伝える内容を具体的にします。これも先生自身の語彙力が試されます。

 4つのNG ワードの理由と対処の方法の中で、重要なのは先生の観察力と言語力ではないかと思います。イライラは「児童のせい」「児童の引き起こした出来事のせい」ではないと理解し、指導にあたってください。これまで使いがちだった言葉遣いを変えることにより、児童から「こうする!」と前向きな言葉が返ってきて、行動に移すことができたら指導の効果があったと判断できます。その経過を記録していくと、上手に叱るスキルは自ずと向上していきます。

参考:『アンガーマネジメントトレーニングブック2024年版』(ミネルヴァ書房 監修 日本アンガーマネジメント協会)

川上 淳子

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントシニアファシリテーター。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。

*『月刊教員養成セミナー2024年7月号』

コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!