いまも「袖の下」はあるのか…外科医が明かす「知られざる悪習」と、患者からもらって「うれしいもの」

AI要約

若手外科医が患者家族からの謝礼を受け取る経験を語り、最終的にはその習慣が廃止された経緯を明かす。

患者家族からのお金を受け取り続けたが、医師自身はそれほど嬉しさを感じずにいた。

病院全体で金品受け取りが禁止され、張り紙を通じて周知徹底された結果、この習慣は消滅した。

いまも「袖の下」はあるのか…外科医が明かす「知られざる悪習」と、患者からもらって「うれしいもの」

超高齢社会を迎え、ますます身近になってくる医者と患者。しかし、「長すぎる待ち時間」「冷たい医者の態度」など、医療に対する患者の不満や不信は尽きない。

悩んでいる患者を前にして、医者は何を考えているのか――。

いま話題の書『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房刊)の著者で外科医の松永正訓氏が、知られざる「医者の本音」を明かす。

内科系はどうなのか知りませんが、外科の世界では患者家族からお金を渡されることは普通にありました。私が医者になったばかりの20代の頃の話です。

医師になって1年目の秋くらいから、執刀医を任されるようになります。手術が終わってご家族に面談室で説明をすると、最後にご家族からお礼を言われて、封筒を渡されるのです。最初は当然それが何であるか分かりませんので、「これって感謝のお手紙?」みたいに感じました。あとで開いてみると現金が入っていました。

今となっては、それがいくらだったかはさすがに覚えていません。1万円だったか、それとも3万円だったか。いずれにしてもそれくらいの金額です。

果たしてこれを受け取っていいものかと悩み、医局長に相談しました。「感謝の気持ちなんだから、ありがたくいただきなさい」と言われました。

その後も、手術のたびに封筒を渡されました。必ず手術後です。手術の前にもらった例は記憶にありません。お金をもらってうれしかったかと言えば、別に何とも思いませんでした。当時の研修医はメチャメチャ忙しかったので、お金を持っていても意味がなかったからです。

アパートの家賃が払えて、三食たべることができればそれで十分という生活を送っていましたので、お金をもらうことのうれしさとか、お金に執着する気持ちとかはまったくありませんでした。ただ何となく、患者家族はちゃんと正規の医療費を払っているのに、医者に謝礼のお金を包むのは少し変だと思っていました。

今から30年ほど前、私が30歳になる手前の頃、患者家族からの金品の受け取りはよくないという話が病院全体で広がっていきました。詳細は知りませんが、科長会議などでそういう話になったのかもしれません。

そして大学病院内のいろいろな場所に張り紙が貼られました。文言は忘れましたが、金品は受け取りません……みたいな。その張り紙はやはり効果があり、手術後に封筒を渡してくるご家族はしだいに減り、気づいたときには皆無になっていました。こうして千葉大病院における「袖の下」はかなり昔になくなりました。