【社説】国の予算編成 「財布のひも」を締め直せ

AI要約

政府は2025年度予算編成に取り組み、歳出の拡大を抑制し借金財政を立て直さなければならない。

概算要求基準に基づき各省庁が要求書を提出し、歳出拡大の影響が残る中で要求額は115兆円を超える見通しとなっている。

国債頼みの財政構造や歳出拡大の抜け穴を修正する必要がある。PB黒字化目標は楽観できず、与党からの歳出拡大圧力も懸念される。

【社説】国の予算編成 「財布のひも」を締め直せ

 政府の2025年度予算編成が本格化する。歳出の拡大傾向に歯止めをかけ、世界最悪水準の借金財政を立て直さなければならない。

 政府は、各省庁の予算要求のルールである概算要求基準を7月下旬に閣議了解した。各省庁はこれに沿って8月末までに要求書を提出する。財務省の査定を経て年末までに予算案を仕上げるが、査定が以前より甘くなっている気がしてならない。

 これは財務省だけの責任ではない。積極財政を掲げた第2次安倍晋三政権以来、歴代政権と与党が歳出拡大を進めてきた影響だ。

 その弊害は今回の概算要求基準にも色濃く残る。

 各省庁が政策判断で増減できる「裁量的経費」を1割削減し、削減額の3倍まで特別枠の「重要政策推進枠」で要求を認める仕組みがそうだ。

 要求にめりはりを付けるために導入したものの、要求総額は115兆円を超え過去最大となる見通しだ。財務省の絞り込みが不十分なら、歳出拡大は延々と続く。

 賃上げ促進や物価高騰対策など重要な政策について、要求額を示さない「事項要求」を認めるのも、歳出抑制の抜け穴に他ならない。

 岸田文雄政権が決めた防衛費の大幅増額、異次元の少子化対策も歳出の拡大要因である。物価上昇などで税収が増えても国債頼みの財政構造は変わらず、野放図な歳出拡大は認められない。

 国庫は政府、与党が自由にできる財布ではない。国民全体のものである。新型コロナウイルス対策や世界経済危機のような緊急事態に備えるためにも、財布のひもを締め直す必要がある。

 一般会計歳出は新型コロナ禍対策で148兆円に迫った20年度をピークに減少しているが、当初予算ベースでは増加基調だ。24年度に前年度を下回ったのはウクライナ情勢や物価高などに備えた予備費を減らしたためで、実質的には拡大が続く。

 この結果、国と地方の長期債務残高合計は24年度末に1315兆円となる見通しで、対国内総生産(GDP)比は2倍を超える。これは世界最悪の水準である。

 政府は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を25年度に黒字化する財政健全化目標が達成できるとの試算を公表した。PB黒字化の見通しは初めてで、楽観はできない。

 この試算には、岸田首相が表明した秋の経済対策は含まれていない。試算では25年度の黒字額は8千億円程度で、大型の補正予算を組めば赤字になるとみられる。

 そもそもPB黒字化は財政健全化の第一歩に過ぎない。

 自民党総裁選や衆院選をにらみ、与党から歳出拡大圧力が強まる可能性もある。無責任なばらまきをいくら重ねても国民の支持は得られない。政府、与党はいいかげんに学習すべきだ。