《まじめの功罪》カスハラや自粛警察に見られる“不健全なまじめさ”から脱却する方法

AI要約

正直で責任感がある「健全なまじめさ」と、まじめすぎて不寛容な状態「不健全なまじめさ」が脳の働きによって区別される。

健全なまじめさは島皮質の活動によって相手を思いやる気持ちが高まり、不健全なまじめさは扁桃体の過剰反応によって他人を責めるなどのネガティブな反応が出る。

不健全なまじめさは個分離思考で自己中心的な行動をとる傾向があり、バランスを保つためには島皮質の活性化が重要である。

《まじめの功罪》カスハラや自粛警察に見られる“不健全なまじめさ”から脱却する方法

 良い意味だけでなく、悪い意味でも使われる「まじめ」。脳科学者の岩崎一郎さんは、正直で責任感がある「健全なまじめさ」と、まじめすぎて不寛容な状態「不健全なまじめさ」があると指摘する。なぜ、二つに分かれるのか。健全なまじめさを手に入れるにはどうすればいいのか。岩崎さんに脳科学の見地から解説してもらった。

 岩崎さんは、最先端の脳科学研究に25年以上従事した後、2009年から「幸せになるための脳の使い方」を研究・発信している。脳科学の見地から「まじめの正体」をひもといてもらおう。

「辞書で『まじめ』を引くと『嘘がなく本気であること、誠実であること』とある。本来の意味であれば、まじめであるのは素晴らしいことです」と岩崎さん。

「しかし、いまはまじめの定義が広く、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも使われますよね。

 そこで、正直で責任感があり、物事をきちんとこなすといったポジティブなまじめを、私は『健全なまじめさ』と表現することにしています。

 このまじめさは、災害のときでもきちんと列を作って救援物資を待ったり、お互いに助け合ったりする日本人の多くが持っている性質だと思っています。

 一方で、カスハラや自粛警察などに見られる、まじめすぎて不寛容になってしまった状態を『不健全なまじめさ』と表現します。

 同じまじめでも健全・不健全に分かれてしまうのはなぜでしょうか? 性格的なことが要因ではなく、実は脳の使い方が違うんです」(岩崎さん・以下同)

 岩崎さんによると、健全なまじめさと不健全なまじめさを分けている脳の領域のひとつが、大脳の内側に位置している「島皮質」の働きなのだという。

「島皮質が活発に活動していると、共感力が高まり、相手を思いやり、助ける気持ちが強くなることがわかっています。

 一方、ここの動きが鈍くなると、扁桃体(側頭葉という脳の中心近くにあり、不安や恐怖などの感情にかかわる神経群)が過剰反応し、『他人を責める』『融通が利かない』『人の言うなりになる』『損得のために嘘をつく』といったネガティブな反応が出るようになります」

 掲載図の縦軸にあるように、“まじめすぎ”と“ふまじめ”は、行ったり来たりする関係性。脳の動き方も、実は同じなのだそう。

「多くの人は、縦軸の中でうまくバランスを取ろうとするのですが、島皮質の動きが活発化しない限り、不健全なまじめさから抜け出せません」

 不健全なまじめさの特徴は、「個分離思考」という脳の使い方をしている点だという。

「個分離思考とは、自分と相手の考えが分離している状態。自分のことに執着し、他人への理解ができていない。たとえば友人に『あなたのために言ってるのよ』と忠告しても、個分離思考の人は相手のことを思いやっているのではなく、自分の意見こそが正しくて、それを押しつけたいだけ。当然、相手に響くはずがありません。相手の迷惑になっていることにも気づかないのが特徴です」

 知人や家族に正義の押し売りをしていないか、振り返ってみなければ……。