BPOの大義はあくまで言論・表現の自由を守ること 元BPO委員「コンプライアンスにもほどがある」

AI要約

放送界の自律機関であるBPOは、放送のコンプライアンスを考えるうえで、言論・表現の自由を尊重し、番組改善を促す存在である。

BPOは裁判所ではなく、放送局の粗探しよりも番組の改善に焦点を当てている。

BPOの役割は番組の倫理向上を促すことであり、過度な裁きや制裁を加えることは稀である。

BPOの大義はあくまで言論・表現の自由を守ること 元BPO委員「コンプライアンスにもほどがある」

 放送界の自律機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)は、放送のコンプライアンスを考えるうえで、どのような存在なのか。「BPOの大義はあくまで言論・表現の自由を守ることにあり、より問われるべきは放送人の職業倫理であり、社会的な『常識(コモン・センス)』である」と筆者は定義づける。

■BPOは裁判所ではない

 BPOでの経験から、昨今の放送におけるコンプライアンスのあり方をどのように考えているかを書いてほしいというのが編集部からの依頼であった。

 BPO放送倫理検証委員会(以下「倫理検証委員会」)委員の6年間に感じたことも書くが、これはBPOや委員のコンセンサスなどではなく、全体を通してあくまでも個人的な意見であることを最初に明記しておく。

 さて、「BPOの議論で最も重視しているコンプライアンスの基準は、言論・表現の自由の尊重だ」と言うと、放送関係者から「ウソだろ」とツッコミが来そうだ。だが、事実である。

 BPOは鵜の目鷹の目で放送局の粗探しをしているとのイメージを持たれているかもしれないが、権限の発動はむしろ抑制的である。倫理検証委員会では、意見書がまったく出されていない年もあるくらいだ。誤った内容を放送しても、それが重大な誤りではなく、番組内ですぐに訂正されていれば審議しないこともある。

 倫理検証委員会であれば、審議されるのは、その誤りが放送倫理の「根幹に関わる」と予見される場合だけである。そして審議の結果、意見書に「放送倫理違反がある」と書いていても、「再発防止に取り組んでほしい」と結んでいるはずだ。

 BPOの英語名にあるように、BPOはあくまで「番組『改善』(Program Improvement)」を促す機構なのである。

 だが検証委員会の在任中には、BPOが番組や制作者に刑罰を課す裁判所のように見なされていると感じることが多かった。番組審議が始まったばかりで何も結論が出ていないのに、関係者を社内処分して担当から外したり、番組の打ち切りを決めてしまったりすることがあった。