暑過ぎる今必要なのは「脱プラスチック」より「日傘」 地球温暖化対策よりも目の前の酷暑をどうにかするべき(古市憲寿)

AI要約

地球温暖化や異常気象の影響による酷暑が日常化している中、環境問題への意識が高まっている。

地球温暖化問題が難解である一方、都市のヒートアイランド現象に対処するための簡易な解決策が存在する。

日本では北上移動や夏の暑さに対する対処法として、具体的な対策が模索されている。

暑過ぎる今必要なのは「脱プラスチック」より「日傘」 地球温暖化対策よりも目の前の酷暑をどうにかするべき(古市憲寿)

 酷暑である。地球温暖化や異常気象という言葉を聞く機会も増えた。意識の高い人は「プラスチックが燃やされる時には温室効果ガスが発生するから木のスプーンを使いましょう」「ペットボトルをやめていきましょう」と訴えたりする。

 そもそも木のスプーンや脱ペットボトルが本当に環境にいいのかは議論の分かれるところだが、即物的な人間としては次のような疑問が浮かぶ。別に木のスプーンを使ってもいいが、まずは目の前の酷暑に向き合いませんか、と。

「地球温暖化」と問題設定されてしまうと、解決は途方もなく難しく感じてしまう。世界が協力して排ガス規制をしても、効果が出るまでには時間がかかる。その世界も到底、一枚岩とはいえない。

 だが問題はもっと細分化することができる。例えば都心部の気温上昇は、ヒートアイランド現象と呼ばれる。建物の高層化、道路のアスファルト、産業活動など都市ならではの要因によって、気温が上がってしまうのだ。

 ヒートアイランド現象の緩和策は、地球温暖化よりもはるかにシンプルである。都市に緑を増やすだけで、日差しは遮断され、冷気が形成される。単純に日陰が増えるだけで体感温度は随分と変わる。

 またアスファルトも遮熱性・保水性舗装とすることで、路面温度は下がる。実際、東京都ではオリンピックのマラソン競技に備えて、遮熱性舗装の整備を進めていた(結局、マラソンは札幌で実施されることになり、通常の舗装よりも約2倍の費用がかかることもあって、事業は打ち切り状態だが)。

 夏の中東は気温が50度に達することもある。僕も今年の4月末にドバイへ行ってきたが、その時点ですでに今の東京ほどの暑さだった。現地の人がどう暮らしているか観察していると、そもそも外に出なくても済む都市設計になっていた。特に車移動をする限りにおいては、一切屋外に出ることなく、仕事にも買い物にも行けてしまう。気温が下がる夜になればルーフトップバーに集ったりもするが、日中は基本屋内なのだ。いずれ夏の日本もそうなっていくのかもしれない。

 ちなみに気温上昇が激しくなった時、日本には有利な点がある。国土が南北に長いので、徐々に北へ生活圏を移していくという秘策が使えるのだ。北海道への遷都が真剣に話し合われる日が来るかもしれない。まあ遠い未来の話だろう。

 とにもかくにも、まずは目の前の酷暑をどう乗り切るかである。ヒートアイランド対策にも時間がかかりそうなので、日傘を買ってみた。友人から猛烈に勧められたトラディショナル・ウェザーウェアのライト・ウェイト・アンブレラだ。少し値段は張るがめちゃくちゃ人気らしく、伊勢丹では売り切れだった(親切な店員さんがルミネにあると教えてくれた)。晴雨兼用なのだが、遮光率とUVカット率が高く、どこであろうと傘を開いた瞬間に日陰が爆誕する。この日傘に夏の命運を託そうと思う。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)

1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

「週刊新潮」2024年8月1日号 掲載