伝統の能登上布、唯一残る工房 被災乗り越え次代へ紡ぐ

AI要約

能登半島地震から7カ月を経て、被災した能登上布の工房が復興に向けて歩み出している。

能登上布は伝統的な麻織物であり、独特の美しい柄と軽さが特徴である。

山崎麻織物工房は被災したものの、応援の声を受けて生産を再開し、全国で物産展に出展するなど復興を進めている。

伝統の能登上布、唯一残る工房 被災乗り越え次代へ紡ぐ

能登半島地震は8月1日で発生から7カ月。能登を代表する伝統産業の一つで、石川県指定無形文化財となっている麻織物「能登上布(じょうふ)」も工房が被災し、一時は生産を中断するなど危機的状況に陥った。織元(生産者)には全国から応援の声が寄せられ、約1カ月後に生産を再開。各地の物産展に出展するなど復興に一歩ずつ歩み出している。

能登上布は上質の麻を使った伝統工芸品で、手織りや手染めの技術から生まれる緻密で美しい柄が特徴。独特の透け感や軽さは「セミの羽」に例えられ、最高級の夏着物などに活用されている。昭和初期の最盛期には120軒以上の織元があったが、戦後の着物離れにより相次ぎ廃業し、現在生産しているのは山崎麻織物工房(同県羽咋(はくい)市)だけという。

同社では元日の地震で棚が倒れたり、機械の一部が損傷したりする被害があったほか、断水などのため生産停止に追い込まれた。駆けつけた織子(機織りの職人)らの尽力もあり、約1カ月で生産再開にこぎ着けた。

困難の中、励みとなったのは全国からの励ましの声だ。被災間もない1月には阪急うめだ本店(大阪市北区)で開催される物産展に出展し、好評を博した。7月には新宿高島屋(東京)で販売。8月にもジェイアール名古屋タカシマヤ(名古屋市)で出品を予定する。

猛暑となり、涼しさを体感できる着物として能登上布への関心は高い。4代目で社長の山崎隆さん(64)は「生産が追いつかず、心苦しいところもあるが、多くの人に魅力を知ってもらいたい。ぜひ夏の一着に」と話している。

■多くの支え実感「心込めて」

「神代から伝承される最高級の麻織物」と伝わる能登上布。約2千年の歴史があるとされるが、現在残る織元は山崎麻織物工房のみ。山崎さんは能登半島地震で工房が被災し、脈々と受け継がれてきた伝統産業の継承に危機感を覚えた。「最後の織元として能登上布のこれからをつくっていきたい」。強い覚悟を決め、新たな一歩を踏み出している。

「生産態勢はまだ整っていない。それでも、織子さんたちは頑張ってくれている」。工房で、織機の前でしきりに手を動かす織子たちに目をやりながら山崎さんはつぶやいた。