起業前に孫泰蔵・LIFULL社長と交わした半年間の禅問答。「正直怖いぐらいだった」【VUILD・秋吉浩気3】

AI要約

神奈川県川崎市に本社がある「VUILD(ヴィルド)」は、デジタルファブリケーション技術を活用した建築業界の革新を目指すスタートアップである。

代表取締役CEOの秋吉浩気がデジファブに魅了され、融資を受けて2台の3D木材加工機を購入し起業。ビジネスに対する関心は当初は薄かったが、徐々に起業家としてのマインドを育んでいった。

秋吉の起業家としてのマインド形成には、慶應大学の田中浩也教授や連続起業家の孫泰蔵との出会いが大きな役割を果たした。

起業前に孫泰蔵・LIFULL社長と交わした半年間の禅問答。「正直怖いぐらいだった」【VUILD・秋吉浩気3】

神奈川県川崎市に本社がある「VUILD(ヴィルド)」は、デジタルデータをもとにものづくりをする「デジタルファブリケーション(デジファブ)技術」で建築業界に革新をもたらすスタートアップだ。

起業の第一歩は、代表取締役CEOの秋吉浩気(こうき)(35)が2016年に銀行から融資を受けて2台の3D木材加工機を購入したこと。翌17年に、29歳で会社を登記する。

だが、ビジネスについては、当初は関心が薄かったのだと秋吉は明かす。

「デジファブが生み出すクリエイションが社会を変えていく。その未来像にはワクワクしていました。でも当初、ビジネス自体は、『飯の種』ぐらいの関心でした」

秋吉にスタートアップ起業家としてのマインドが芽生えたきっかけは、何だったのか。

2010年代前半、3Dプリンタなどの普及によりメイカー・ムーヴメントが沸き起こる。「ものづくりの民主化」と「デジファブ」の潮流が世界に浸透していく。

その頃大学で建築を学んでいた秋吉も、大いに刺激を受けた。デジファブを入り口に、師と仰ぐ2人のキーパーソンと出会うことになる。

1人は、慶應義塾大学の田中浩也教授。日本におけるデジファブ研究の第一人者であり、2011年に市民のものづくり拠点「FabLab(ファブラボ)」を立ち上げていた。秋吉はいち早くこのラボを訪れた。そこでは子どもも含め、あらゆる属性の人たちが主体的にものづくりに参加している光景を見た。

デジファブの領域から、次世代の建築や社会のあり方を考えたい── 。

秋吉は、慶應大学の大学院に進み、田中研究室の門を叩いた。

もう一人のキーパーソンは、連続起業家の孫泰蔵(51)だ。2014年末、共通の知人を介して出会うことになった。当時大学院2年生だった秋吉は、卒業後の進路を模索していた。

その頃、孫は「Living Anywhere」という構想を提唱。既存のインフラから解き放たれて、テクノロジーの力でどこにいても暮らすことができる。そんな社会のあり方だ。

その構想を住環境に敷衍すると、「オフグリッド」という方向性が見えてくる。送電網に依存せず、自給自足する自律分散化の考え方だ。

実は孫が掲げていたLiving Anywhereという概念と、秋吉が長年追い求めてきたデジファブによる「ものづくりや建築の民主化」という方向性はマッチする。

秋吉は、自分に起業家マインドの火を付けたのは、間違いなく孫だったと言い切る。

「泰蔵さんとの出会いが決定打になりました。ただ、僕はビジネスとしてスケールさせていくための言語化には、かなり時間がかかりました。事業構想の言語化のお手伝いを辛抱強くしてくれたのが孫さんで、かけがえのない恩人です」